スタジオコロリド・山本幸治氏が語る、コロナ以降のアニメ制作 『泣き猫』はなぜ劇場公開から配信へ?

 コロナ禍における映画業界の現状、そしてこれからについて考えるリアルサウンド映画部の特集企画『「コロナ以降」のカルチャー 現在地から見据える映画の未来』。第6回は、6月18日にNetflixにて配信される映画『泣きたい私は猫をかぶる』を手がけたツインエンジンとスタジオコロリドの代表を務める山本幸治社長にインタビュー。『泣きたい私は猫をかぶる』が劇場公開から配信へと舵を切った背景や、コロナ禍におけるアニメーション制作の変容について話を聞いた。

「これまでメジャーだと思われてこなかったものが出てくるように」

ーー『泣きたい私は猫をかぶる』(以下、『泣き猫』)はもともと劇場公開予定でしたが、Netflixへの配信に移行しました。業界的にも大きな出来事だと思うのですが、このあたりの背景についてお聞かせください。

山本幸治氏

山本幸治(以下、山本):映画として作ってきたものを配信に切り替えることは、映画会社さんをはじめさまざまな方にとって、思うことがあると思います。制作会社の立場としては、クライアントにもなる映画会社さんの動向はもちろん気になりますが、スタッフを抱えている身としては、いつ公開できるかわからない状況を考えると、作品をいち早く世に出すことを優先したいというのが最終的な思いでした。製作委員会には東宝さんも関わっていますが、今後も映画をどうしていくのか考える必要のある映画会社の方と、作品を作り続けなきゃいけない制作会社の私たちで、少しずつ立場は違う。そこにおいては意見を一致させる必要はなかったと思うんです。それぞれの立場を表明して、議論を深めている時間もないというか、とにかくなんとかしなければいけないことで、その上でNetflixさんが提示してくれた金額が高かったので、製作委員会も納得してくれた。なので、今回の配信に関していうと、今後映画がどうなっていくかという話とは別問題で、確かに今後を占う1つの事件ではあったけど、今後をどうするかという話ではなく、『泣き猫』をどうするかという話で僕らは判断しました。

ーー『泣き猫』に関しては、ファーストウィンドウとしての配信に関する問題とは切り離されているわけですね。スタジオコロリドさんとしては、今後の変化についてどのように考えていらっしゃいますか?

山本:コロナや配信に限った要因ではないですが、映画館への精神的な憧れはありつつも、変わりつつあったものが、一気に底が抜けて変わらざるを得なくなっていくと思います。例えば、映画に関しては、「ピクサーの新作だから」「トム・クルーズが出ているから」といったメジャーブランドへの信仰がずっと続いていたじゃないですか。だから夏の映画のトリにそういった作品が公開されるといった方程式が続いている。だから日本の映画製作も、ベストセラーを原作に人気俳優を主演にして、メジャーブランドな作品を作るといった方法論がずっと強化されてきました。そこにお客さんのニーズがあると思ってやっている映画会社やテレビ局の人たちがいて、その中には「この映画は誰が観るんですか?」と言われて絞られていったクリエイターもいる。僕も含め、プロデューサーはお客さんのために作品を作る意識の強い人なので、「監督のやりたいことはわかるけど、これはお客さんが必要としているんですかね?」と言ってどんどん角を取ってメジャーな作品にするという力学がありました。そういったものが一気になくなるわけではないですが、これまでメジャーだと思われてこなかったものが出てくるようになることはあるのかなと。これはコロナ以前から起き始めていて、新海誠監督もその一つの象徴だったと思うし、特にアニメにおいてはそういった邦画メソッドとは違う形でメジャーに躍り出てくる作品が多かった。ファーストウィンドウの多角化やSNS時代の強化、そして今回のコロナの影響も加わり、今後加速していく気はしています。

ーー先日発表されたアニメスタジオが協力し合うネットワークを構築した新法人・EOTAはそういった未来を見据えてのことだったのでしょうか?

山本:そうですね。EOTAは大きく2つの役割があって、1つは参加しているどこの制作スタジオも強いスタジオではないので、みんなで結束して作品作りを行う大きな船のような役割があります。もう1つは、個人作家や、2〜3人のユニットとして活動しているクリエイティブチームが、作品作りに挑む際にサポートできるような環境を作ることです。ネット上には小ユニットでオリジナルのショート作品を作る人が何人もいるわけですが、それをうちのスタジオとして抱えようと思ったときに、コロリドは長編を作るスタジオなので、そういう人たちを受け入れる体制が整っていないんです。そうしたときにEOTAというもう少しゆるい受け皿があると、そうした人たちが中に入ってきて、角を取らずにクリエイティブをやっていけるんじゃないかなというイメージがあります。スタジオ同士の結束と、才能の受け皿という2つの意味を考えています。

ーー個人作家による作品の創出が成功していくことになると、スタジオのあり方や業界の構造にも変化が及びそうですね。

山本:Netflixが今のようにすごく影響力を持っている時代の先がまだあるかもわからないんですよね。アニメ業界は、ビデオメーカーが影響力を持っていた時代が長くて、そこから今度はゲーム会社へとだんだん変わってきているわけですけど、ずっと中間が抜かれることが続いてきています。「お客さんとクリエイターがダイレクトにつながる時代が来るんだ」「コンテンツイズキングだ」と言っているけど、実際はスタジオもクリエイターも強くなくて、資本家が強かったわけです。資本の論理でいうと、作っている人たちが最強という時代はまだ到底きていません。でも最初Netflixが日本に来たときは、映画会社やビデオメーカーが間に入っていたんですけど、そのうちNetflixが直接スタジオを取ったり、原作をおさえたり、そのうち原作開発をやり出す。そうなってくると僕らも含めて、スタジオはクリエイターのエージェントでしかないといった日がくるかもしれないし、クリエイターやスタジオが直接作品を発信していくこともあるかもしれない。僕らが今回配信を決めたのは、Netflixのディールが良かったからが全てで、それだけの金額を出せるのは、この瞬間においてNetflixが世界で最大の影響力を持っているからに過ぎないと思うんです。その先を考えたときに、Netflixが買うような企画を一生懸命作るというのは違うと思っています。その象徴が、個人作家のサイズのものの作品制作をサポートしていくこと。これに関しては、正直マネタイズは期待できません。リスクもあるけど独自性がないとダメだなと思っています。

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