二階堂ふみ、小南満佑子、柴咲コウ 『エール』でいばらの道を突き進む三者三様の生き方

『エール』でいばらの道を突き進む女性たち

 古山家に女の子が誕生した。裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)にとって待望の第一子でありながら、音にとっては苦渋の決断を迫られるタイミングでの妊娠となり、女性の生き方の難しさが表現される。『エール』(NHK総合)第10週「響きあう夢」では、夫婦が手を取り合い、お互いの夢を“育てる”ことで音を挫折から救う様子が描かれた。

 音の妊娠に動揺したのは本人だけではない。千鶴子(小南満佑子)や環(柴咲コウ)もまた、音と接する中で「妊娠」という事実に様々な感情を表す。女性にとって、予期せず訪れることのある妊娠、この現実は母になる喜びや責任とともに、たとえ一時的であったにしてもキャリアや夢を中断しなければならないことを意味する。音にははっきりと歌手になるという夢があったが故に、妊娠は手放しで喜べるものではなかった。しかし一方で、母になる道を強く望む者もいる。吟(松井玲奈)は妊娠した音を訪ねた際、帰り際にポツリと「いいなあ……赤ちゃん」と呟いた。音の母である光子(薬師丸ひろ子)もまた、「夢を叶える人は一握り。あとは人生に折り合いつけて生きていくの」と語り、母になることを選んで歌劇団で踊るという夢を諦めたと語っていたことがある。

 妊娠した音を取り巻く環境は容易なものではなかった。学校では、妊婦である音が役を降りずにヴィオレッタを演じ続けることに「ヴィオレッタは交代した方がいいんじゃないか。そのほうがこっちも気兼ねしなくて済む」などという声があがる。千鶴子はそんな様子を見かねて音に直接「やっぱりあなたは強欲ね。あなたがどう生きようとかまわない、でも少しは周りのことも考えて。正直、皆戸惑ってる。あなたに気を使って思いっきり練習ができないって」と伝えるなど記念公演に向けて士気を高めている一同を、妊婦の音の存在が乱してしまっている状況を指摘したのだ。千鶴子は最年少で帝国コンクール金賞を受賞した実力者。環が言うように、技量では音より優れており、選考会で音の気迫に負けさえしなければヴィオレッタを勝ち取っていた人物でもある。千鶴子にとって音楽は、様々なものと引き換えに手に入れた“努力の賜物”であった。故に音が、伸び伸びと暮らしながらも「歌手を目指す」と軽々しく口に出すことにいつも眉をひそめるのである。しかし、学校を辞めた音に、千鶴子は海外の留学先から手紙を書くなど、決して2人は不仲であるわけではない。千鶴子は、良きライバルとして音の存在を認め、共に高め合おうという素直な心の持ち主でもある。

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