伝記映画やドキュメンタリー製作、さらには出演まで 音楽スターにまつわる映画ブーム到来!?

音楽スターにまつわる映画ブーム到来!?

 Netflixなどの映像ストリーミング勢も音楽映画ブームまっただ中だ。その主戦場はドキュメンタリーにある。2015年、生前のエイミー・ワインハウスを追う『AMY エイミー』がヒットした頃より、ジャンルブームに貢献したとされるプラットフォームは『ニーナ・シモン~魂の歌』を配信したNetflixおよびAmazonプライム・ビデオであった。定額制ストリーミングで配信されれば、熱心なファン以外も話題作を簡単に観ることができるし、話題に火がつきやすい。

『トラヴィス・スコット:Look Mom I Can Fly』Netflixにて配信中

 近年のNetflixは、クラシックアクトのみならず、ビヨンセやトラヴィス・スコットといった現役チャートトッパーのドキュメンタリー配信につとめている。2020年には、Apple TV+が200万ドル程度で制作されたビリー・アイリッシュのドキュメンタリーを2600万ドルで購入。Amazonも近い値段でリアーナのドキュメンタリーを買っている。これらは、同年に『ミス・アメリカーナ』が配信されたテイラー・スウィフトのNetflixディールを遥かに上回る額だという。なぜそんなに差があるのかというと、単に時間の問題で、ブームによって音楽ドキュメンタリーの取引価格が急速に高騰していった、ということらしい。

 もちろん、音楽スターの「IP」及びコンサート映像需要によってストリーミング側は存分に儲けることができる。『テイラー・スウィフト: レピュテーション・スタジアム・ツアー』は数年にわたってNetflixサブジャンル枠のトップを維持したという。ミュージシャンにしても、楽曲消費増加が見込めることはもちろん、効果的なブランディング・ツールとしてドキュメンタリーを活用できる。同じくテイラーの『ミス・アメリカーナ』がいい例だ。ここで彼女は「優等生」でありつづけたキャリアと後悔を語り、政治的沈黙を破った理由や摂食障害の経験、新恋人について赤裸々に告白している。日本でも話題を呼んだ本作が新たな「テイラー像」形成に寄与したことは間違いない。

 
 
 
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 『ブラックパンサー』&ケンドリック・ラマー、『ライオン・キング』&ビヨンセといった映画と連動するコンセプトアルバムも特筆に値するが、そのかたわら、出演した映画を音楽表現に活かすスターも散見される。『アリー/ スター誕生』のワンシーンに出演したホールジーは、これが自分の主演バージョンだ、とばかりに同作によく似た『Finally // beautiful stranger』のミュージックビデオを制作している。『アンカット・ダイヤモンド』にゲスト出演したザ・ウィークエンドに至っては、アルバム『After Hours』の予告編で同作のオープニング・シークエンスを再現してみせた。さらに、撮影現場を共にした(同映画のスコア制作者)ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーは『After Hours』において合計3曲の制作に参加している。こうしたクリエイティビティの化学反応は、音楽と映画、そのどちらも楽しむ者にとってはたまらない現象だろう。2020年5月現在、新型コロナウイルスによってエンターテインメント界は危機に立たされているが、もし劇場や制作現場が再開したのなら、豪華絢爛な音楽スター映画が人々の心を潤してくれるはずだ。

参考

https://www.thewrap.com/top-10-highest-grossing-music-biopics-from-tupac-to-queen-photos/
https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-48941104
https://www.boxofficemojo.com/year/2019/
https://www.hollywoodreporter.com/news/music-documentaries-popular-amy-success-837375
https://www.billboard.com/articles/columns/hip-hop/8550969/the-weeknd-reveals-after-hours-album-title

■辰巳JUNK
平成生まれ。おもにアメリカ周辺の音楽、映画、ドラマ、セレブレティを扱うポップカルチャー・ウォッチャー。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)
ブログ:http://outception.hateblo.jp/
Twitter:https://twitter.com/ttmjunk

■配信情報
『ミス・アメリカーナ』
Netflixにて独占配信中

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