“道三ロス”もたらす本木雅弘や“ベビーフェイスの策士”川口春奈 『麒麟がくる』脇役のインパクト
誰も見たことのない信長・染谷将太
もう一人、視聴者にインパクトを与えたのが織田信長を演じる染谷将太だろう。これまで「第六天魔王」を名乗る戦国時代のカリスマ・信長を演じてきたのは、渡哲也(NHK大河ドラマ『秀吉』)、舘ひろし(NHK大河ドラマ『功名が辻』)、小栗旬(フジテレビ系『信長協奏曲』)、木村拓哉(TBS系『織田信長 天下を取ったバカ』)、反町隆史(NHK大河ドラマ『利家とまつ~加賀百万石物語~』)、市川海老蔵(NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』)など、いずれも男臭く、本人もカリスマ性をまとった俳優ばかり。変わったところでは天海祐希(フジテレビ系『女信長』)、GACKT(MBS/BS-TBS『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』)も信長を演じている。
染谷が演じる信長は、見た目からして丸顔で童顔。第9話では帰蝶との祝言を「池の水ぜんぶ抜く大作戦」ですっぽかして怒られたりしていたが、母と妻もいる前で父・信秀に松平広忠(浅利陽介)の首を差し出すなど恐ろしさも垣間見せていた(そしてやっぱり怒られた)。弟ばかりを溺愛する母・土田御前(檀れい)の愛に飢え、父からも認められていないと感じていた信長は「褒められたい男」であり、それがかなわないと妻である帰蝶の前でもおいおい泣いてしまう。落合チーフプロデューサーは「誰も見たことのない信長」「強さと弱さをあわせもった信長」と表現している。
童顔で少年のような信長に当初は違和感を覚えていた視聴者も少なくなかったようだが、染谷の若さを爆発させる演技力に惹かれていった様子。第14話での聖徳寺の会見では百戦錬磨の道三を向こうに回して堂々と振る舞い、村木砦の戦いでは鬼神のような表情を見せた。染谷が演じてきた今の信長は、道三が言うように「したたかで無垢で、底知れぬ野心が見える」。この先どんな「魔王」に化けていくのかが楽しみでならない。
ベビーフェイスの策士・川口春奈
『麒麟がくる』がスタートしたとき、もっとも注目を集めていたのが帰蝶の存在だったかもしれない。当初キャスティングされていた沢尻エリカがトラブルによって降板することになり、急遽起用されたのが川口春奈だった。
当初は駒(門脇麦)との微笑ましいやりとりが多かった帰蝶だが、何気に幼なじみの十兵衛には当たりが強く、あどけない顔でしれっと尾張へ信長の顔を見にいけだの何だのとハードなミッションを課していた。第11話では織田と今川の和議のため、足利義輝(向井理)のところまで向かわせるのだから尋常じゃない。なお、子どもの頃は兄に泣かされた翌日、十兵衛が城にやってくるのが遅かっただけで叱りつけたこともあったとか。
帰蝶の「策士ぶり」がクローズアップされたのが第13話。道三との面会を渋る信長を後押しし、さらに伊呂波太夫(尾野真千子)にかけあって鉄砲三百丁の援軍まで与えたのだ。完全無比な「帰蝶プロデュース」ぶりに「さすがマムシの娘」「敏腕ぶりに震える」と視聴者は湧いた。第15話に至っては義父の弟・織田信光(木下ほうか)を焚き付けて、夫の敵・織田彦五郎(梅垣義明)を暗殺させるという悪女ぶりが爆発。蜜まみれの団子をぱくりとくわえる仕草が意味深だった。なお、ふたりが食べていた名古屋風のみたらし団子(関東風と違って団子が5つある)の蜜は甘くない。
これも川口春奈のピュアな顔立ちで大胆な策を講じる意外性と、大河ドラマのヒロイン役に緊急リリーフするという日本シリーズの完全試合の途中から登板した岩瀬仁紀並みの裂帛の気迫による演技が生んだ現象だろうと思う。
しかし、このような個性派揃いの登場人物をしっかり支えているのが、主人公・明智十兵衛光秀役の長谷川博己の演技力であることを忘れてはいけない。今はひたすら「受け」に回っている彼が、「攻め」に転じたときにドラマがどうなっていくのか、楽しみに待ちたいと思う。
■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter
■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00〜放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00〜放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin