現代の作り手にとってメタ的な思考は当たり前に? 『素敵な選TAXI』から紐解くバカリズムの作家性
例えば現在、日本テレビ系で土曜夜10時から再放送されている木皿泉脚本の『野ブタ。をプロデュース』の主人公・桐谷修二は「この世の全てはゲームだ」と言ってクラスの人気者を演じているメタ的な思考をする高校生である。また、月9(フジテレビ系月曜9時枠)で再放送されていた古沢良太脚本の『コンフィデンスマンJP』もメタ的な話だ。コンフィデンスマン(信用詐欺師)のダー子たちを主人公にした本作は、毎回、ターゲットを信用詐欺で騙す。その時にターゲットに対し、嘘の物語を仕掛けるのだが、この詐欺行為自体がメタドラマとなっており、詐欺だとわかっていても、うっかり感動してしまう。
木皿泉も古沢良太もバカリズムもドラマに対するメタ意識がとても強いのだが、同時にウェルメイド的でもあるという真逆の要素が共存している。その中でバカリズムは一番ウェルメイド寄りで、最終的にはよく出来たお話へと着地する。『素敵な選TAXI』の第3話も、最後に不倫していた葛西が明かす意外な真相まで含めて、実に気持ちの良い終わり方である。
「時間のやり直し」を誘う枝分を、藤子不二雄Aの『笑ゥせぇるすまん』に出てくる喪黒福造のような人間を破滅させる悪魔的存在にすることも可能だったはずだ。しかしそこでバカリズムは、これ見よがしな悪意(作家性)は見せない。
しかし、完全にイイ話かというと、微妙な違和感のようなものが必ずついて回る。その微妙な違和感こそがバカリズムの作家性である。『かもしれない女優たち』(フジテレビ系)や『架空OL日記』(日本テレビ系)はそのバランスが絶妙だった。
『素敵な選TAXI』は、この2作に較べると見えにくいが微妙な違和感が常にある。それは例えば枝分がタイムスリップする際にしっかり料金を取り、その料金が3時間10分で6万120円(だが、割り引いて6万)という場面に現れている。初乗り、10分まで3000円、以降1分毎330円。この微妙に高い(しかし払えないことはない)値段設定こそが、バカリズムの作家性である。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
『素敵な選TAXI』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00~21:54放送
出演:竹野内豊、各話ゲスト、バカリズム、南沢奈央、清野菜名、デビット伊東、升毅ほか
脚本:バカリズム
演出:筧昌也、星野和成、今井和久
音楽:本間勇輔
主題歌:aiko「あたしの向こう」
制作:関西テレビ、MMJ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/sentaxi/