『野ブタ。をプロデュース』なぜ男女3人の物語に? 木皿泉が脚色で重ねた世界観

 第1話の柳の木や、第2話の体操着をめぐるエピソードも同様である。本作は、ある存在が別の場所に移動することで、まったく別の意味をもった存在に変わってしまう現象を繰り返し描いている。それは、人は変わることができるという希望の象徴であると同時に、この世に確かなものは何もないという不安の現れでもある。

 また、これは今回見返して、改めて気づいたのだが、『野ブタ。』は魅力的な外部を提示しながらも、教室とそこで生きるクラスメイトを否定しない。

 どんな願いでも叶う猿の手を教頭から渡された野ブタは、「(自分をいじめる)バンドーなんか消えてしまえッ!」と願う。しかしその後、考えを改め「バンドーがこの世から消えろというのを取り消して下さい。私はバンドーがいる世界で生きてゆきます」と改めて願う。やがて修二たちは「とほーもなく暗くて深い、人の悪意」と対峙することになるのだが、この時、野ブタは悪意を持った他者を滅ぼすのではなく、共に生きていくことを宣言したのだと思った。

 『野ブタ。』について木皿泉は以下のように語っている。

「十年前、テレビドラマ『野ブタ。をプロデュース』の教室のシーンを書いていて、私は突然泣けてきた。この教室にいる生徒たちは、全てひとりぼっちでとても頼りなく立っているのだと思えたからだ。それは教室の話だけではなかった。この日本に生きている全ての人、年寄りも働き盛りも子供も、みんな頼りなく自分の力で立っていなければならないということである。私は、泣きながら、そうだ、これからは、その人たちのために仕事をしようと思った。」(木皿泉著『木皿食堂3 お布団はタイムマシーン』(双葉社)「しあわせを書く」より)

 あの教室ではじまったことが、今は世界中で起こっている。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『野ブタ。をプロデュース』特別編
日本テレビ系にて放送
第4話:5月2日(土)22:00〜22:54
出演:亀梨和也、山下智久、堀北真希ほか
脚本 : 木皿泉
原作 : 『野ブタ。をプロデュース』白岩玄(河出書房新社)
音楽 : 池頼広
チーフプロデューサー : 池田健司
プロデューサー : 河野英裕、能勢荘志
演出 : 岩本仁志、北川敬一、佐久間紀佳
制作協力 : トータルメディアコミュニケーション
制作著作 : 日本テレビ
(c)日本テレビ

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