『浦安鉄筋家族』ドラマ化は絶妙なキャスティングで期待大 成功の鍵は“演出”と“脚本”?

『浦安鉄筋家族』ドラマ化は無茶!?

 とは言え、もっとも重要なのは演出と脚本だろう。

 漫画の映像化は難しく、作り手が作品のエッセンスをちゃんと理解していないと失敗する。中でも一番難しいのがギャグ漫画だ。

 笑いのリズムはとてもパーソナルなもので、作者の生理的感覚と直結している。だから少しズレるだけでも笑えなくなってしまう。その意味でも、漫画というページをめくることで時間が進む(つまりある程度読者がリズムを調整できる)表現を、時間の流れとともに物語が進んでいくテレビドラマのリズムに落とし込むことはとても難しく、そこをどうクリアするのかが一番の壁となる。

 『浦安』の脚本には『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン』で知られる上田誠たちヨーロッパ企画の面々がクレジットされている。

 監督には『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の瑠東東一郎が参加。座組を見る限り漫画の世界を舞台劇の笑いに落とし込んだようなドラマになると思うのだが、元々『浦安』はザ・ドリフターズに対するリスペクトが強く、『8時だョ!全員集合』(TBS系)のような舞台劇のテイストもあるため、作品との相性は意外と良いのかもしれない。

 今のお笑い番組は、『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)のような対決モノか、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)のようなひな壇トークばかりになってしまい、物語仕立ての作り込まれたコントバラエティはNHKの『LIFE!~人生に捧げるコント~』だけとなってしまったが、一方でドラマの形を借りたコントバラエティは健在で、バカリズムの『架空OL日記』(日本テレビ系)のような芸人が脚本を書いた傑作ドラマも増えている。

 このジャンルを切り開いたのは『勇者ヨシヒコ』(テレビ東京系)シリーズなどで知られる福田雄一だ。『浦安』で主演を務める佐藤二朗はムロツヨシと並ぶ福田ドラマの常連だが、バラエティで難しくなったストーリー仕立てのコントはテレビドラマの中で延命している。とは言え、「笑い」の映像化は難しく、滑っている作品も少なくない。

 そんな中、福田ドラマがうまくいっているのは脚本と演出を福田が兼任していることが大きい。「笑い」にとって重要なのは脚本と演出の相性で、できれば一人で担当するのが理想である。そうでなければ『架空OL日記』における住田崇のように、脚本の良さがわかっている監督が必要となる。

 まだ放送前であるため、ヨーロッパ企画と瑠東東一郎の相性は未知数だが、成功すればドラマにおける「笑い」の可能性は一気に広がるのではないかと期待している。ちなみに一番観たいのは動物ネタだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
ドラマ24『浦安鉄筋家族』
テレビ東京系にて、4月10日(金)スタート 毎週金曜深夜0:12〜放送
※テレビ大阪のみ、翌週月曜深夜0:12〜放送
地上波放送終了後、動画配信サービス『ひかりTV』『Paravi』で配信
出演:佐藤二朗、水野美紀、岸井ゆきの、本多力、斎藤汰鷹、キノスケ、坂田利夫、染谷将太、大東駿介、松井玲奈、宍戸美和公、滝藤賢一
オープニング・テーマ:サンボマスター「忘れないで 忘れないで」(ビクターエンタテインメント / Getting Better)
エンディング・テーマ:BiSH「ぶち抜け」(avex trax)
原作:浜岡賢次『浦安鉄筋家族』(少年チャンピオン・コミックス)
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:藤田絵里花(テレビ東京)、神山明子
監督:瑠東東一郎、吉原通克、諏訪雅、松下敏也
脚本:上田誠、諏訪雅、酒井善史(ヨーロッパ企画)
制作:テレビ東京、メディアプルポ
製作著作:「浦安鉄筋家族」製作委員会
(c)浜岡賢次(秋田書店)1993・(c)「浦安鉄筋家族」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/urayasu/
公式Twitter:@tx_urayasu

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