椎名桔平が『トップナイフ』で体現する孤高の天才医師 “息子”とのつながりがその弱さを救う
人の身体における唯一の未開の地「脳」の複雑さに迫りながら、人間そのものの複雑さを暴こうとする医療ドラマ『トップナイフー天才脳外科医の条件ー』(日本テレビ系)。残すところ最終話のみという第9話では、前回から引き続き「家族」をテーマにしつつ、医師と患者たちの内面が紐解かれていく。
「あの“人を探るような目つき”、“何をされても抵抗できない弱さ”。昔の俺だ」。天才脳外科医の黒岩健吾(椎名桔平)は、深山(天海祐希)と同じく誰にも“己の弱さ”を開示しようとしない。「開示しようとしない」というよりは、そのやり方がわからないと言うほうが適切なのかもしれない。幼いころに母親に捨てられ、父親からも愛情を受けることなく育った彼は、「俺にはそれしかなかった」というオペの技術を孤高に磨き続けた。先輩の技術を盗み、人の何十倍も努力して、その男はトップナイフにまで登りつめることになる。「そして俺は強くなった」。そう言葉にする彼は一方で、弱さを吐き出す相手とついに出会うことがないまま、孤独の人生を貫徹してきた。
そんなときに突然現れた黒岩の“息子”。はじめは意に介することなく疎ましく接していたものの、その子の境遇ーー母親に捨てられ、学校では同級生にいじめられるーーを見て、あの頃の自分にそっくりな存在であると黒岩は気づくようになる。「人間は所詮ひとりだ」と自分に言い聞かせながらも、その姿にどうしようもなく惹かれていってしまう、黒岩の人間的な側面が垣間見えるシークエンス。黒岩が東都総合病院に残るかもしれないと今出川部長(三浦友和)に告げたのは、きっとあの息子との出会いがあったからに違いないだろう。
本当は出会うことがなかったかもしれない孤独と孤独の存在が、奇跡的に心を通じ合わせる瞬間。その美しい関係は、すべて母親(内田慈)の策略であったと明らかになった途端に無残にも崩れ去ってしまう。99.9%と出たDNA鑑定の結果は仕組まれた罠で、代わりに突きつけられたのは、彼らふたりが紛うことなく他人であるという事実。それでもこのドラマが伝えようとするのは、たった一瞬でも心を通じ合わせることができたあの時間の愛おしさなのだろう。お互いにどう心を開示していいかわからないけど、辿々しくも歩み寄ろうとするさま。洗面所のそこかしこに点在した戦隊モノのフィギュアはその持ち主の存在を強くその場所に刻みながら、黒岩の“弱さ”を守る心の支えであり続ける。