毒々しくも優しい“歌舞伎町ファンタジー” 『初恋』は三池崇史が観客に送る人生への応援歌だ!

『初恋』は三池崇史が送る人生への応援歌

 何より、本作は三池崇史が昔から持っている優しい視点と、青春映画的な側面が魅力的である。いつ死んでもおかしくないレオと、人生に絶望しているモニカ。この2人の若者に対して、三池崇史は厳しい戦いを課すのと同時に、その先にあるものをハッキリと明示する。『大阪最強伝説 喧嘩の花道』(1996年)や『クローズZERO』(2007年)でも、三池は何かと戦い続けるエネルギッシュな若者にエールを送ってきた。今回のラストカットでは、これらの映画より一歩踏み込んだ、より具体的なメッセージが描かれる。かつて哀川翔と竹内力の気合が暴走したせいで地球が消滅する映画を撮っていた人とは思えない、驚くほど静かで地に足の着いた、しかし希望に満ちたラストカットは必見だ。“あの頃”には戻れないが、“あの頃”があったから今がある――そんな三池崇史の円熟を感じさせる名シーンであり、『初恋』というタイトルに相応しい。

 たしかに本作は人が死ぬ。首が飛ぶ。腕がもげる。しかし、暴力に次ぐ暴力にも関わらず、映画全体の印象は驚くほど優しい。エネルギッシュでギラついていた “あの頃”はすでに終わっているし、決して戻ることができないという現実を描きながら、一方で“あの頃”のような熱気を持って、一歩だけ踏み出してみないかと優しく語りかけてくるようだ。もちろんその先には、ブチキレたベッキーをはじめとする過酷な試練が待っているわけだが、昨日は持てなかった希望を見出せるかもしれない。本作は毒々しくも優しい歌舞伎町ファンタジーであり、三池崇史が観客に送る人生への応援歌である。鬼才の集大成にして、新しい代表作の誕生だ。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿し
ています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■公開情報
『初恋』
全国公開中
監督:三池崇史
出演:窪田正孝、大森南朋、染谷将太、小西桜子、ベッキー、三浦貴大、藤岡麻美、顏正國、段鈞豪、矢島舞美、出合正幸、村上淳、滝藤賢一、ベンガル、塩見三省・内野聖陽
脚本:中村雅
音楽:遠藤浩二
企画・プロデュース:紀伊宗之
プロデューサー:ジェレミー・トーマス、坂美佐子、前田茂司、伊藤秀裕、小杉宝
配給:東映
制作プロダクション:OLM
制作協力:楽映舎
製作:「初恋」製作委員会
PG12
(c)2020「初恋」製作委員会
公式サイト:hatsukoi-movie.jp
公式Twitter:@hatsukoi2020
公式Instagram:@hatsukoi2020

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