『スカーレット』ヒロインの波乱万丈ぶりが強烈 女性P×女性脚本家が“シビアな目線”で作る朝ドラ

女性P×女性脚本家による朝ドラの生々しさ

 『おしん』の波乱万丈の人生はもはや説明不要だが、おしんが意外にも一般的にイメージされてきた「ひたすら耐える女性」ではなく、かなり気丈であったことも、近年の再放送などを通じて初めて知った、あるいは思い出したという人は多いのではないか。

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 そして、女性新聞記者の草分けと言われた磯村春子をモデルにしたと思われる『はね駒』は、ちょうど男女雇用機会均等法元年だったために、「女生と仕事」を非常にシビアに描いた作品であった。ヒロイン・りん(斉藤由貴)が仕事と結婚生活とのバランスを欠いた試練として描かれたのは、流産、そして、仕事にかまけて愛情を十分にかけられなかった長男の登校拒否などのエピソードである。

 しかも、終盤には、女性新聞記者として忙しく働くりんが、家事や子育てをしてくれる実母(樹木希林)に対して、「お母さんが大変なら、女中を雇えばいい。私はそれだけ稼いでいる」と言うシーンもあった。そこで、これまで黙って協力してくれていた母が本気で娘に怒り、こう言う。

「お前はいつから女房や母親の代わりをお金にさせるような、薄汚れた根性の女になったんだ」

 時は男女雇用機会均等法元年、まさに女性の社会進出を高らかに謳うとき。第一線で仕事をし、女性ならではの様々な苦労を知る女性CPと女性脚本家が働くヒロインにこのセリフを語らせたのは、今思い返しても、かなりのシビアさである。

 また、『半分、青い。』では、「人生・怒涛編」において、バブル崩壊後に経済が低迷している世の中で、「100円ショップのアルバイト」話を妙に軽く描いたり、女の価値は「若さしかない」と断じたりという展開があった。これは苦悩を正面からウェットに描くよりも、むしろ世知辛く、残酷で、鬱な展開である。

 また、『半分、青い。』と放送時期は前後するが、女性CP×女性脚本家のシビアな目線が際立っていたのは、『ごちそうさん』だ。

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 同作では、ちょうど1月、今くらいの時期から、長期間にわたる重苦しいうつ展開が続いていた。一つは、今話題の東出昌大演じる夫・悠太郎の浮気疑惑。ヒロイン・め以子(杏)が銃後を守る模範的な愛国婦人になっていくこと。幼なじみの源太(和田正人)が戦場から戻るも、精神を患っていたこと。さらに悠太郎が逮捕され、釈放された後には満州へ旅立つこと。3月には息子の活男(西畑大吾)が戦死すること……最終週の直前まで、終わらないのではないかと思うほど長く暗いトンネルが続いたのは、朝ドラ史上でも稀ではないかと思う。

 そして、この『ごちそうさん』でプロデューサーを務めていたのが、『スカーレット』CPの内田ゆきさんである。だからこそ、参考にしたと思われる女性陶芸家・神山清子さんの夫が、弟子の女性と不倫、泥沼の離婚劇の末に去って行ったというエピソードから、三津(黒島結菜)が登場してからというもの、喜美子×八郎夫婦の仲を案じる視聴者は多かった。

 結果、ドラマでは不倫は描かず、三津が自ら去っていったわけだが、創作における本当の大変さはむしろそこから始まったようにも見える。女性作り手タッグが描く朝ドラの残酷さは、令和の時代に突入してなお、その厳しさを増している。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
2019年9月30日(月)〜2020年3月28日(土)放送予定(全150回)
出演:戸田恵梨香、富田靖子、林遣都、松下洸平、桜庭ななみ、福田麻由子、マギー、財前直見、佐藤隆太、正門良規ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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