『ロング・ショット』圧倒的“多幸感”の理由は? 新時代のラブコメとして重要な1本に

『ロング・ショット』圧倒的“多幸感”の理由は? 新時代のラブコメとして重要な1本に

「男として/女として」を超えた物語

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(c)2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

 リチャード・ギアとジュリア・ロバーツが出演し、日本でも大ヒットを記録したラブコメ映画のスタンダード『プリティ・ウーマン』(1990)の“男女逆転版”とも言われている本作。劇中の印象的なシーンで、『プリティ・ウーマン』の挿入歌として世界的なヒットを記録したロクセットの「愛のぬくもり(It Must  Have Been Love)」が流れることなどから、本作が『プリティ・ウーマン』を大いに意識していることは、確かに間違いないことだろう。しかし、そこで描き出されるものは、単に男女の役割を逆転した、いわゆる“ミラーリング”以上のものがあったのではないか。それが筆者の個人的な感想である。無論、ひょんなことから親密な関係となっていく男女と、立場や生活環境、あるいは2人の関係を好ましく思わない人々など、その関係性を阻む数々の困難という構図は同じである。しかし、その本質は、実は若い頃に出会っていた2人が、お互いの中に自らの原点を見出し、いつのまにか頑なに保持するようになっていた自身の“世界の見方”を、緩やかに変化させていく点にあるのではないだろうか。それはあたかも、ローゲンが打ち出してきた“ブロマンス”的な価値観と、セロンの“自立して行動するカッコいい女性”像が、衝突し合うことなく、緩やかに溶け合うような……そんな驚きと感動が、本作にはあるように思うのだ。

 もちろん、国務長官であり次期大統領候補であるシャーロットを演じるセロンは、輝くばかりに美しく、抜群にカッコいい。女性も憧れるカッコ良さが、確かにそこにはあるのだろう。一方、フレッドを演じるローゲンは、本作においても、その得意ネタであるユダヤ人ネタ、大麻ネタ、シモネタを封じることなく、その随所にちりばめながら……というか、オシェア・ジャクソン・Jr演じるフレッドの親友「ランス」は、ローゲン映画では欠くことのできない“ブロマンス”の相手として、実はかなり重要な役割を担っていると言えるだろう。

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(c)2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

 そんなセロンの“カッコ良さ”とローゲンの“ブロマンス”は本作において、必ずしも物語の本流をさまたげるものではなく、むしろそれを強化するものとして機能しているところが本作の面白さであり、何よりの“新しさ”だ。フレッドは、シャーロットの“カッコ良さ”に惹かれるのであり、そんな彼の思いを最終的に後押しするのは、その親友であるランスなのだから。

 そう、あくまでも本作は、シャーロットとフレッドの物語なのだ。しかもそれが、「男として/女として」といった枠組みを超えて、互いに惹かれ合い認め合う「パートナー」として描かれているところが、本作の画期的なところであり、今後のラブコメ映画の“在り方”を考える上でも、実に重要なところなのだ。お互いが持っている価値観を否定せずに尊重し合いながら、それに縛られることなく、お互いが緩やかに変化していくこと。それは、ある種の“理想”や“希望”なのかもしれない。けれども、それをありえないスケール感で華やかに提示してみせることは、映画が本来持っていた役割のひとつであり、大きな喜びではなかったのか。それを観る人々の心に生まれるのは、純粋な“あこがれ”だ。その“あこがれ”こそが、たとえ何歳になろうと、我々を突き動かし、駆動するものではなかったのか。『ロング・ショット』は、ともすれば分断されつつあった2つの価値観を、同時代のポップカルチャーを手掛かりに混ぜ合わせた“新時代のラブコメ映画”であると同時に、映画が本来持っていた喜び(それが本作の“多幸感”の正体だ)を久しぶりに思い起こさせてくれるという意味でも、実に重要な一本と言えるだろう。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twitter

■公開情報
『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
全国順次公開中
監督:ジョナサン・レヴィン
脚本:ダン・スターリング、リズ・ハンナ
原案:ダン・スターリング
出演:シャーリーズ・セロン、セス・ローゲン、オシェア・ジャクソン・Jr、アンディ・サーキス、アレクサンダー・スカルスガルド
配給:ポニーキャニオン
提供:ポニーキャニオン/アスミック・エース
原題:Long Shot/2019/アメリカ/カラー/英語/125分/シネマスコープ/字幕翻訳:アンゼたかし/5.1ch/PG12
(c)2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

『スキャンダル』
2月21日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
出演:シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー
監督:ジェイ・ローチ
脚本:チャールズ・ランドルフ
配給:ギャガ
原題:Bombshell/2019/アメリカ・カナダ/カラー/シネスコ/5.1ch デジタル/109 分/字幕翻訳:松浦美奈
(c)Lions Gate Entertainment Inc.

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