2019年の年間ベスト企画

年末企画番外編:ナマニクの「2019年 年間ベストホラー映画TOP10」 昨年に引き続き豊作の1年に

3.『ザ・マミー』

 麻薬カルテルの抗争に巻き込まれた子供達の物語。女、子供に容赦なく死が訪れ、この世が常に冷たく無情なものとして描かれる。あまりにも悲惨で悲しくなる。この情け無用の物語はギレルモ・デル・トロの初期作品『デビルズ・バックボーン』を彷彿とさせ、実世界の辛い現実を直視せざるを得ない。超自然的な描写はあれど、もはやこれはドキュメンタリーである。

 やたらリアリティがあるのは、オーディションで選んだド素人の子役達に脚本を一切読ませず撮影に臨ませるという挑戦的な手法をとっているからだ。

2.『ミッドサマー』

『ミッドサマー』(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 2020年2月公開の作品だが、本年めでたく復活した東京ファンタで上映済みであるためランクイン。本作は言わば“明るい『ヘレディタリー/継承』”だ。スクリーンは明るいのに、主人公が置かれたシチュエーションそのものが、辛くて怖くて厭という純粋なホラー。もはや残酷描写などオマケに過ぎない。生きるのが辛いなら、みんな捨ててしまえば良い、死んでしまえば良い。そんなことを本気で思わせる作品は多くはない。ドラッギーな映像も必見。

1.『CLIMAX クライマックス』

『CLIMAX クライマックス』(c)2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS

 冬の夜。リハーサルの打ち上げパーティで盛り上がるダンサーたち。ところが酒にLSDが混入していたため、彼らは知らぬ間に幻覚地獄に陥る。誰がLSDを盛ったのか? というミステリーはあるものの、描きたいのはLSDの効果よって本性向きだしで舞い狂う人間の生き地獄。終わらない痴話喧嘩、肥大化する被害妄想、押さえられない怒りと高揚感、性欲、鬱、憎しみ、嫉妬。心も体もカメラも字幕も全てがグルグルと回転し続ける様に呆然とさせられる。

 以上、10作品だ。今回選出していて、ホラー映画は日本で公開されるまでやたらと時差があることに改めて気づかされる。日本劇場公開作品として限定してしまうと、どうしてもホラー映画の最新トレンドには乗れないのだ。ドラッグが吸血鬼を産み出す『Bliss』、新婚初夜に死のかくれんぼ『Ready or Not』、A・シュワルツェネッガーの息子が多重人格を演じる『Daniel isn’t Real』等々、海外サイトで2019年ベストに選出されているホラー映画には傑作が沢山ある。来年は時差を感じさせないベスト選出が行えることを祈っている。

■ナマニク
ライター。ZINE『残酷ホラー映画批評誌 Filthy』発行人。『映画秘宝』にて「ナマニクの残酷未公開 Horror Anthology」連載中。単著に『映画と残酷』(洋泉社)がある。2011年シッチェス映画祭に出展された某スペイン映画にヒッソリと出演している。

■公開情報
『CLIMAX クライマックス』
公開中
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
出演:ソフィア・ブテラ、ロマン・ギレルミク、スエリア・ヤクーブ、キディ・スマイル
配給:キノフィルムズ/木下グループ 
2018/フランス、ベルギー/スコープサイズ/97分/カラー/フランス語・英語/DCP/5.1ch/日本語字幕:宮坂愛/原題:CLIMAX/R-18
(c)2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS
公式サイト:http://climax-movie.jp/

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