『幸福路のチー』監督が語る、日本アニメーションから得たもの 「今敏監督の影響は大きい」

『幸福路のチー』監督が語る、日本アニメの影響

「ウェイ・ダーション監督にも、最初はやはり断られた」

ーー台湾のアニメーションの制作環境はどういったものなのでしょうか。

ソン・シンイン:台湾ではアニメーション映画は年に1本くらい公開されているんです。ただあまり話題にはならないので、最初アニメーションにしようと決めたときは周りには反対されました。成功したケースがないですから。

 台湾のアニメスタジオは、基本的に外国からの下請けで成り立っているんです。だから、オリジナルの台湾独特の作品を作る機会がなく、経験者もほとんどいません。制作を始めた時に、私が何を語りたいのか理解できるアニメーターがなかなか見つかりませんでした。絵を描くのが上手なアニメーターは多いのですが、私のストーリーを理解してくれる人は少なく、みなさん絵で交流して、言葉で表現するのが苦手な方が多くて困りました。

ーーそれはオリジナルを作る経験がないからこそ悩みですね。

ソン・シンイン:最初は下請けのスタジオで仕事をしていた40代のアニメーターを雇い、ストーリーボードやキャラクターデザイン、美術をやってもらったんですけど、どうしても私のストーリーを理解できなくて。例えば、チーがお父さんに弁当を持っていくシーンで、なぜチーが弁当を持っていくのかがわからなかったようです。お父さんへの愛情と葛藤を表現したシーンですが、どれだけ説明しても理解してもらえず、結局チームは一度解散になりました。そのあと学校を卒業したばかりの新人のアニメーターを雇ったんです。彼らは仕事をしたことがないので、管理は大変ですけど、私のストーリーを理解してくれる柔軟な思考を持っていました。

 そして私と若いアニメーターの間に、さらに2人のアニメーター監督も雇いました。彼らは長編を作ったことはありませんが、素晴らしい短編を手がけた経験があったので、私の指示を聞き、アニメーターたちにその指示を伝えるという役割を担ってもらいました。

ーー台湾の映画監督のウェイ・ダーションさんが声優として出演されていますが、キャスティングはどのように行ったのですか?

ソン・シンイン:ウェイ・ダーション監督をキャスティングする前に、たくさんの人に当たってもらったんです。でもどの方もなかなかピンとこなくて。そこで、プロデューサーが、以前ウェイ・ダーション監督と仕事をしたことがあるとのことで、声優にどうだろうかと提案してくれました。ウェイ・ダーション監督が話す台湾語はとても優雅で、かつ説得力のあるような口調でした。そういう話ぶりが従兄弟のウェン役にぴったりだと思いました。

 でもウェイ・ダーション監督にも、最初はやはり断られたんです(笑)。脚本も読む暇もないくらいで多忙で、それでも粘ってオファーを続けていました。実はウェイ・ダーション監督とは、彼が『海角七号』でブレイクする前から知り合いだったんです。彼が短編作品を撮っていた時、私はジャーナリストで何度も取材してその作品を取り上げたんです。それで、「あなたのこと以前助けましたよね? 今回ぜひ私の作品でお願いできませんか?」という風に思い出させて、やっとOKをもらったんです(笑)。

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