『スカーレット』喜美子は歴代屈指のタフなヒロインに 草間×大久保、2人の師匠から受け継いだ心

喜美子は歴代屈指の“強い”ヒロインに

 人の心。視点は大きく異なるが、“心”に関係する話は実は荒木荘の大久保(三林京子)の話の中でも少し出てくる。喜美子は、ある日大久保から皿磨きに関する談義を受けた。大久保は、“心”を込めて磨こうが、仕事だと割り切って磨こうが、他人から見たら変わらないと言う。しかし、後日になって、喜美子は「そやろか?」と本人の前で疑問を呈した上で、“誰ででもできる仕事やない”、“あんたにしかできひん”と言わせてみたいのだと喜美子の気持ちをぶつけたのだった。そして、なんとか大久保から仕事の指示を受けることができた喜美子は、「一生懸命、“心”を込めて働かせていただきます!」と言った。

 心自体は当然のことながら、物理的に見ることなんかできない。でも、もし“心”を込めて皿を磨いたり、料理をしたり、掃除をしたり、洗濯をしたりしたら? もちろんすべての人にその“心”が伝わるとは言い切れない。大久保の言ったように、確かに他人から見たらどれも一緒なのかもしれない。それでもきっと、磨かれた皿やできあがった料理を受け取る人に、ちゃんとその仕事をした人の“心”を感じ取ってもらえる瞬間がきっとあるはずだ。

 今では荒木荘の仕事に慣れて、すっかり住人たちから頼られるようになった喜美子。女中としての基本においてはしっかりと「大久保イズム」を継承しつつも、喜美子特有の心の込め方で仕事がこなされている。今では荒木荘の人々は、喜美子の仕事ぶりを見て、きっとこう思ってくれていることだろう。“あんたにしかできひん”、と。

 草間と同じく、間違いなく大久保は喜美子の人生の師匠の一人であり、大久保もまた1人の努力の人だった。結婚して、子供4人を育て上げ、厳しい姑を看取ったりして、ひたすら家事に汗を流してきた。内職で弟の学費の半分を稼ぐこともあったという。そして、そんな大久保の力強さの裏には、深くて広い大久保のやさしさもまた感じられる。「お皿なんか磨いたら綺麗になるわ」と言っていた大久保だが、きっと大久保だって彼女なりの“心”をいろいろなところに込めているはずだ。喜美子が休みをもらった時には、おむすびを作ってくれたりして、そうした細やかな配慮には大久保の温かさがたしかにある。

 草間と大久保、2人の師匠は喜美子を一回りも、二回りも強くしてくれた。そして喜美子は2人の背中から、強さと同じくらい、あるいはそれ以上に大切なものも同時に吸収していった。これからの喜美子の人生の中で、ひょっとすると思わずめげそうになってしまうときがあるかもしれない。でも、そんなときには2人から教わったこと、2人の背中を思い出せば、きっと前を向けるはずだ。

(文=國重駿平)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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