キャラクターの情報量が少ないのはなぜ? 新海誠『天気の子』に見る、「口承文芸」からの影響

東京の風景が緻密に再現

 前述の通り、須賀と夏美が取材をしているときに神社の神主は「天気の巫女には悲しい運命がある」と話しており、作中ではその天気の巫女の悲しい運命へのヒントが物語序盤から登場していた。実在する日本の月刊オカルト情報誌『ムー』のページを須賀がめくっていると、そこに「人柱」という文字が書かれており、その後、話の終盤あたりで天気の巫女である陽菜が人柱になって消えたら降り続いている雨が止むということが明かされる。また占い師の「力は使いすぎると消えてしまう」という発言もヒントとなっている。陽菜は力を使って晴れさせることを繰り返していくことで、体が水のように透明になっていったのだ。このように目にとまるかわからない一瞬の場面には、情報が多く散りばめており、後の展開の伏線となるような仕掛けが施されている。

 また、『天気の子』では、実際にある場所、建物が登場しており、『君の名は。』のときのように聖地巡礼を行っているファンが多くいる。新宿を中心に、東京の風景が緻密に再現されており、陽菜がアルバイトをしていた「マクドナルド」や、帆高が寝泊まりに使用していた「まんが喫茶マンボー」など実在する様々な店名をぼやかさずに描いていた。これらのことから、キャラクターの情報量が少ないことに対し、視覚的、あるいは物語的な情報量が多いことで全体のバランスがとれているのではないだろうか。

 新海監督の作風といえば、まず挙げられるのは画の細部にこだわるアニメーションだ。今作『天気の子』では、そこに「口承文芸」という新たな要素が加わったことで、その作家性はさらに進化しているように思う。今回登場した「巫女」は、前作の『君の名は。』でも登場していたが、次回作でも口承文芸は登場するのだろうか。頭の片隅に置きながら次回作に期待したい。

(文=江崎由真)

■公開情報
『天気の子』
全国東宝系にて公開中
声の出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
(c)2019「天気の子」製作委員会
公式サイト:https://www.tenkinoko.com/

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