『ノーサイド・ゲーム』相手への敬意と抱擁を示すフィナーレへ 大泉洋の決意が呼び込んだ逆転劇
では、アストロズを守るために戦う君嶋の姿勢は、会社員として正しいと言えるだろうか? 第1話で反響を呼んだ雨中のタックルは、見栄も体裁もかなぐり捨てて、アストロズのGMとして生き直すという君嶋の覚悟を示すものだった。どんなに自信のある選手でも、全力で相手にタックルする、その瞬間に必要なのは「勇気」だけだ。冷静な判断とともに度胸が必要な場面で、頭をからっぽにして飛び込むときには、エリートも肩書も関係ない。
本社の経営戦略室次長から社会人ラグビーという未知のフィールドに飛び込んだ君嶋は、アストロズを立て直すために心血を注ぎ込むのだが、結果的にそれが君嶋の逆転劇を呼び込むことになる。錯綜した人間関係にあって、「局外」から俯瞰することができた君嶋の勝利であり、すべては「与えられた場所でベストを尽くす」という決意から発していた。
もし、君嶋がアストロズGMという立場を一時のものとして、おざなりに考えていたなら、その後のアストロズの快進撃も、青野(濱津隆之)との邂逅もなく、協会とリーグを変えることもできなかったに違いない。何もなくなったときに、仲間を信じて、眼前の仕事に賭けることで会社の危機を救った君嶋の姿は、「続けていく中で正しさが生まれる」という真理を雄弁に語っている。それはまた「人は変わることができる」ことの証明でもある。
勝ち負けによって物事を決める世の中の本質は、フィールドの中と外で変わらない。スポーツを通して内面の変化に目を向けた『ノーサイド・ゲーム』は、正義と正義がぶつかり合う二項対立でも、絶対善によるワンウェイな勧善懲悪でもない、「対立することも結びつきのひとつの形」であるというメッセージを伝えている。戦うことが、憎みあうだけでなく、相互理解でもあること。<これが愛じゃなければなんと呼ぶのか>と歌う主題歌「馬と鹿」の問いに対する答えは、全力で戦った相手への敬意と抱擁である。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/twitter
■放送情報
日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』
TBS系にて、7月7日(日)スタート 毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:大泉洋、松たか子、高橋光臣、笹本玲奈、天野義久、廣瀬俊朗、齊藤祐也、林家たま平、コージ(ブリリアン)、佳久創、村田琳、笠原ゴーフォワード、大谷亮平、中村芝翫、上川隆也
原作:池井戸潤『ノーサイド』
脚本:丑尾健太郎ほか
演出:福澤克雄ほか
プロデューサー:伊與田英徳ほか
製作著作:TBS
(c)TBS