『だから私は推しました』“アイドル”題材の不穏なミステリードラマへ 嘘をついているのは誰?
アラサー女性と地下アイドル、オタクというワードを読んで「ああ、30歳手前のOLがアイドルやオタク仲間と出会って人生変えるコメディね、あるある」と、ヒルナンデスを見ながら柿ピーを頬張っていた自分を張り倒したい。
なんだこれ、こんなドラマ観たことないよ。
今、どこよりも“攻めて”いるNHKの「よるドラ」枠。これまでも『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』や『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』等、民放では難しい題材を若いスタッフたちが独自の感性で料理してきたチャレンジ帯だ。この枠で第3弾としてオンエアされ、間もなく最終回を迎えるのが『だから私は推しました』である。
先の2作は櫻井智也(MCR)、三浦直之(口口)といった、舞台系の作家が脚本を担当していたのだが、『だから私は推しました』は『JIN-仁-』(TBS系)や、朝ドラ『ごちそうさん』(NHK総合)の脚本家・森下佳子を迎え、さらに練られたテイストに。すべてのスタッフがノリノリで物語の世界を構築しているのが画面の奥から伝わってくる。
まず驚かされたのが1話のラスト。それまでの流れはほぼ想像した通りで、アラサー女性たちによるおしゃれなレストランでのマウンティング、インスタのリア充アピール、結婚目前の彼氏にフラれてスマホを落とす展開等、まだ柿ピー片手に観ていられたワケだが、終盤、それまでウェイウェイしていた愛(桜井ユキ)が神妙な顔をし、陽気な顔つきの刑事・聖護院(澤部佑)の取り調べを受けるシーンで一気にミステリーの色味が増えた。これは柿ピー片手に観られるドラマじゃない。
マイナーなアイドルグループ、サニーサイドアップのトップオタである瓜田(笠原秀幸)の入院。サニサイメンバー・栗本ハナ(白石聖)の危ないオタクである彼は、誰かにマンション上階から押されて落下したらしい。いまだ意識が完全には戻らない瓜田を“押した“件で取り調べを受ける愛は、サニサイの解散ライブがおこなわれる時間を気にしながら、彼女とハナとの出会いやグループ解散までの日々を振り返り、刑事に語っていく。
このドラマで特に新しいと思ったのが、「女性が年下女性を真性オタクとして推すこと」。それも愛が推す相手は、舞台上でオーラ全開で輝く宝塚のスターやシンガーではなく、グループの中でもドン臭い“永遠の生卵”ことハナだ。ハナをファンが振るサイリウムの光の中に立たせたいと、愛はライブに皆勤し、1枚1000円のチェキ券を多数買って彼女を応援。さらにサニサイをメジャーなアイドルフェスに出演させるため、IT風俗ことチャットレディのバイトで稼いだ100万円以上のお金を投票券付きのグッズ購入につぎ込む。黒の下着姿でゆで卵を片手にチャトレのバイト……いいのか、皆さまのNHK(大好きです)。