『ルパンの娘』ラブとコメディが奇跡的に調和 “現代のロミオ”を大真面目にやる瀬戸康史

『ルパンの娘』ラブとコメディが奇跡的に調和

瀬戸康史の大真面目なロミオが、バランスを支える屋台骨に

 そこからはもう華と和馬の波乱の恋にただ釘付け。第6話で、国際窃盗団に捕えられた華のもとへ和馬が悪漢たちをなぎ倒し駆けつけるシーンは、「ふたりの名場面のフラッシュバック×和馬の生死を懸けたアクション×悲しげなメロディ」という最強の掛け算で、恋のせつなさが最高潮。その正体を知りながら、華を逃がすという和馬の選択に驚きつつも胸が締めつけられた。

 さらに第7話では、警察から逃れる華と和馬がフェンス越しに再会。義賊とはいえ、法に反する華と、正義の徒である和馬。たった一枚の金網に隔てられたふたりの断絶がわかりやすくビジュアライズされていて、フェンス越しに華の名を呼ぶ和馬の叫びと、消えゆく華の背中というラストシーンに、まるで半身を失ったような心地にさせられた。

 開始当初、こんなドラマになるなんてまったく想像もしていなかった。おバカなコメディという基本コンセプトは守りつつ、常に斜め上の展開で視聴者を裏切り、ドキドキさせる。この振り幅が、『ルパンの娘』を極上のラブストーリーにしている。

 ちょっとでも誤ると、途端にバランスが崩れるラブとコメディの奇跡的な調和を成功させているのは、遊びを知り尽くした制作陣。いいドラマは、大きな嘘はつくけれど、小さな嘘は絶対につかない。「ありえね~」とツッコミたくなる荒唐無稽なネタの数々と、過剰なぐらいゴージャスな画づくりで、虚構の限界地点を突破しつつ、好きな人に秘密を抱えた後ろめたさや、愛する人のありのままを受け入れたものの、決してもう何も知らなかった頃には戻れない難しさを、繊細に描写。どんなに設定が突飛でも、枷を背負った恋に関しては普遍的なものとして丁寧に描いているから、視聴者の共感を呼ぶのだ。

 そして、それを演じる深田恭子と瀬戸康史の好演が、この特殊すぎる恋を応援したいものにしている。深田恭子の裏表のないピュアさはもちろんのこと、健闘光るのが瀬戸康史。瀬戸康史は、ともするとバカバカしくなってしまう恋物語を一貫して大真面目に演じ切っている。どれだけ周りがおふざけを入れようと、瀬戸自身が安易に笑いに走った場面はない。あくまで真剣に現代のロミオを演じ抜いている。その青臭いまでの一途さが、コメディとラブストーリーの間にそびえたつ塀を飛び越える“恋の翼”となっている。

 第8話は、和馬によって華に手錠がかけられるという衝撃のラストで幕を閉じた。さらに第9話では和馬がエミリ(岸井ゆきの)と婚約するという、またもや予想を裏切る展開が待っている。現時点で華と和馬の恋がどう着地するかは予測不可能。生真面目な和馬がLの一族に加わることは考えにくいし、犯罪者の烙印が押された華を警察一家の桜庭家が受け入れる姿も想像しづらい。

 もそも『ロミオとジュリエット』は悲恋。これだけ真っ向から『ロミジュリ』をやっている以上、もしかしたらこちらが想像しているよりずっと悲しいラストシーンが待っている可能性も否定はできない。ふたりの許されぬ恋ははたして成就するのか。その結末にこれだけハラハラできることこそが、『ルパンの娘』が王道ラブストーリーである証拠と言えそうだ。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が1/30より発売。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
木曜劇場 『ルパンの娘』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:深田恭子、瀬戸康史、小沢真珠、栗原類、どんぐり、藤岡弘、(特別出演)、加藤諒、大貫勇輔、信太昌之、マルシア、麿赤兒、渡部篤郎
原作:『ルパンの娘』 横関大(講談社文庫刊)
脚本:徳永友一
プロデュース:稲葉直人
監督:武内英樹
制作・著作:フジテレビ 第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/Lupin-no-musume/

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