Netflix、バブル終了で転換期へ? “ストリーミング戦争時代”にいかにメガヒットを生み出すか
2019年7月、Netflixオリジナル作品『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(以下、『OITNB』)が完結した。このエミー賞受賞作が「Netflixブランド」を築いたことは疑いようがない。のちに「アメリカのポップカルチャーに多様性意識を根づかせた」と評されることとなる本作は、旧来のハリウッドに登場しなかった多様な女性たちを丁寧に描いていった。コメディ・ジャンルで始まりながらシリアスな社会問題も扱う流動性も話題を呼んだ。そのインパクトさながら、知名度抜群のトップスターが出演していたわけではなかったし、さらには監督もプロデューサーも女性だった。つまり、これは誰も観たことがないようなドラマだったのである。
『OITNB』が打ち立てた「Netflixオリジナル」ブランド。それはさながら「クリエイティブな実験場」だった。初期作の成功以来、同社は大金を投じて「大衆が今まで観たことのない作品」をどんどん製作配信していく。パイロット版なしに世界中の会員に向けてシーズンまるごとリリースする定額制ストリーミング・モデルがそれを可能にしていた。メガヒット作『ストレンジャー・シングス』のプロデューサー、ショーン・レヴィも、2017年に旧来のスタジオと異なる自由なクリエイティブ環境を称賛している。先駆的なビジネスモデルと独創的な作品群で「ハリウッドのルール」を破壊したNetflixは、「Peak TV」時代のトップを走り、2018年にはディズニーと時価総額を並べることでエンターテインメントの頂点に立った。
2019年もNetflixの王座は揺らいでいない。しかしながら、オリジナル製作の方針については議論が生まれている。『OITNB』が完結した夏、Netflixは『トゥカ&バーティー』と『The OA』の継続キャンセルを発表した。前者は女子の鳥同士の友情を描いた奇妙なアニメーション、後者は「とにかく意味不明」と評判の熱狂的考察ファンダムを築くSFシリーズだった。どちらもクリエイター陣には女性の存在がある。つまり、打ち切られた両作とも、ある面で『OITNB』につらなる、独創的で実験的な「Netflixでしか観られない」作品だったのだ。製作本数が多いためキャンセル報も目立つ前提はあるにせよ、深く愛された2つのショーのキャンセルは、4〜6月期の予想以上の米国会員減少と相まって「バブル終了後のNetflix転換期」として語れることとなった。
「Netflixは合理的な競争がなかったストリーミング黄金時代から抜け出しつつあります。今は、より保守的に集中して戦う必要がある」- The Verge
2010年代末のNetflixを取り囲むもの、それは熾烈なストリーミング競争だ。競合Amazon PrimeやHuluに加え、圧倒的なブランド力を誇る低価格帯のDisney+、スティーヴン・スピルバーグら大物スターを集めたApple TVが今秋スタート予定。加えてワーナーメディアやNBCユニバーサルも独自サービスを計画している。つまり、巨大な資産を抱えるライバルが来年までに4つも増える。