黒木華が選んだカッコ悪い自分に直面すること 『凪のお暇』が示す、人生を切り拓く勇気

『凪のお暇』が示す、人生を切り拓く勇気

 ゴンにバイクで連れて行ってもらった甘い思い出が漂う海に、今度は自分の足で向かい、自分の意思で合鍵を捨ててやろう! そう意気込んだのだが、そうはうまくいかないのが人生。自転車で向かうにはあまりに遠く、ガラケーでは地図アプリも当てにならず、気づけば当たりは真っ暗に。挙げ句の果てには転んで膝からは血がダラダラ……。

 だが、それでも一歩踏み出せば、日常とは違う人や風景と出会える、それが人生だ。藁にもすがる勢いで1件のスナックに入った凪。そこは、いつも慎二が涙ながらに凪のことを相談していたママ(武田真治)が営むスナック『バブル』の2号店。

 「帰りな」と冷たい言葉を投げかけながらも、怪我を手当し、海までの道のりを丁寧に示した地図、そして幸せの青いトリをもじったおいしそうな丼までごちそうしてくれた。そして自分の意思で行きたいと思ったところなんだから、とことん行けと背中を押す。その出会いがキッカケで、凪がそこで働くことになるなんて、やはり人生は何があるかわからないから面白い。

 さらに、そこに凪との思い出や「復縁バイブル」を捨て、新たなオフィスラブと手をつないだ慎二がやってくるとは。加えて、合鍵を返されたゴンに凪への初めての恋心が芽生えるとは。その胸に手を当てた指に、凪からもらったちぎりパンのヒモをクルクルと結びつけてるところからも、愛しい想いが伝わってくる。

 インターネットの発達によって、私たちはその場所に行かなくても、行ったような気分を味わうことができる。自分が選択しなくても、誰かが選択して行動した結果に、高みの見物を決め込むことも。だが、それを本当にしたことがある人の経験値までは、得ることはできない。

 冷たい雨に打たれた後の、温かなおもてなしのありがたさ。転んだ痛みと、手当をしてくれた人との心の距離の近づき方。人生を切り拓くとき、誰もが傷つきたくないし、失敗したくないと思う。しかし、きっとその痛みだけでなく、新しい何かと出会うキッカケにもなる。怖がって何も変わらない毎日に息苦しさを感じるのなら、エイッと一歩踏み出してみるのも、また人生の楽しみ方。カッコよく生きるとは、そんなカッコ悪い自分に直面することから始まるのかもしれない。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『凪のお暇』
TBS系にて、7月19日(金)スタート 毎週金曜22:00~22:54放送
出演:黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、吉田羊、片平なぎさ、三田佳子、瀧内公美、大塚千弘、藤本泉、水谷果穂、唐田えりか、白鳥玉季、中田クルミ、谷恭輔、田本清嵐、ファーストサマーウイカ
原作:コナリミサト『凪のお暇』(秋田書店『Eleganceイブ』連載)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、山本剛義、土井裕泰
プロデューサー:中井芳彦
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/

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