マ・ドンソク祭りの幕開け! 『無双の鉄拳』は“ヴァイオレンス・ファンタジー欲”を満たす快作だ

マ・ドンソク祭りが幕開け!

 ……と、ここまでドンソクの暴れっぷりだけを書いてしまったが、非暴力の日常パートも魅力的である。特にドンチョルの妻ジス(ソン・ジヒョ)のキャラクターが良い塩梅だ。日々の生活に追われ、ドンソク演じるドンチョルにもけっこう厳しく当たる。やや間の抜けたドンチョルに時に呆れ、時に怒る。本気で怒る。この関係性の描き方が絶妙で、ジヒョに正論で怒られるとき、あのドンソクが小さく見えるのだ。これはドンチョルの「雄牛」としての覚醒を際立たせるのに一役買っているといえるだろう。そんなふうに本気でケンカをすることもあるが、それでも根底ではお互いに深い信頼で結ばれている。まさに理想の夫婦だろう。こうした応援したくなる夫婦像を見せてくれるからこそ、我々は遠慮なくヴァイオレンス・ファンタジーをドンソクの背に見ることができるのだ。ちなみに敵は名作『アジョシ』(2010年)の極悪兄弟の弟で有名なキム・ソンオ。安心安定の外道っぷりで、これまた映画を盛り上げてくれている。

 本作はマ・ドンソクの豪快なアクション、ドンソクを含む俳優らの好演で、観客のヴァイオレンス・ファンタジー欲を十分に満たしてくれる映画に仕上がっている。ちなみに今年はマ・ドンソクの当たり年であり、近くドンソク演じる元ボクシングチャンピオンの体育教師(どんな教師だ)が生徒のために陰謀に立ち向かう『守護教師』(2018年)、そして大ヒット作の続編『神と共に 第二章:因と縁』(2018年)が相次いで公開される。これからドンソク祭りが起きることは必至だろう。本作はその先陣に相応しい。見終わったあと日頃のストレスが消え、軽くなった肩で風を切りたくなるような、心なしか自分が強くなったような気になる1本だ。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■公開情報
『無双の鉄拳』
6月28日(金)よりシネマート新宿・心斎橋ほか全国順次ロードショー
出演:マ・ドンソク、ソン・ジヒョ、キム・ミンジェ、パク・ジファン
監督・脚本:キム・ミンホ
武術監督:ホ・ミョンヘン
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2018年/韓国映画/韓国語/116分/シネマスコープ/5.1ch/字幕:田中和香子/映倫G
/英題:Unstoppable
(c)2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:musou-tekken.com

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