『貞子』はホラーとエンターテインメントを併せ持つ“フェーズ3”へ SNS時代の新たな貞子とは
そんな劇中では、清水尋也演じる主人公の弟で動画クリエイターの和真が、ある火災現場に忍び込んでカメラを回し、おそらく貞子と対峙してしまうのであろう、突然行方をくらます。そして彼を心配する塚本高史演じる石田と、彼から報せを受けた池田エライザ演じる主人公の茉優は、すでに削除された動画を探し出して視聴する。その中に“貞子”を見つけたことをきっかけに、和真を連れ去った呪いのルーツを探ってある場所へとたどり着くのだ。この2人の一連の行動は、まさに1作目の『リング』で松嶋菜々子が演じた浅川玲子と真田広之演じた高山竜司と重なるものを感じてしまう。
とはいえ、こうしたシステムチェンジが図られた以上は、そもそも貞子が呪いをかけるターゲットにも、明確な変化が現れているのは当然のことだ。従来は、呪いのビデオを見た視聴者であれば無差別に誰しもがそのターゲットにならざるをえなかったわけだが、今回は撮影された動画に登場するかどうか、ハナから貞子自身に選択権が委ねられていると見える。それは、本作が貞子のバックグラウンドを改めて定義し直す上で密接な関係を持つ部分であろう。茉優の働く病院にやってきた謎めいた少女は“貞子の生まれ変わり”と母親から罵られ、クローゼットに監禁されていた。そして和真と茉優は両親に捨てられて施設で育ってきた過去を持つ。また、20年ぶりにシリーズに再登場を果たした倉橋雅美も、友人たちを失ったショックで精神病院に通院しながら孤独な日々を送ってきたのだと、その行動の節々から読み解くことができる。
本作の中で貞子が呪いのターゲットに選ぶのは、彼女自身と同じような孤独な人物に限定されているということだ。呪いという方法を通して彼女は、自分の仲間を探しているということだろう(『貞子vs伽倻子』でおそらく最も分かり合える存在であったはずの伽倻子と戦うことになってしまったのだから、そうなるのも重々頷けるところだ)。これまでの貞子は誰彼構わず、自分に興味を持ってくれる人にひたすら呪いをかける、いわゆる“構ってちゃん”だったわけだが、この20年でその無意味さに気付き、自分を理解し共感してくれる人物を求めはじめているのかもしれない。そういった意味で、SNSでなりふり構わず「いいね!」を求める現代人に向けて極めてシンプルなコミュニケーションを提案しているようにも見え、VHSからネット動画にシフトしたこと以上に、SNS時代の新たな「貞子」と定義できるのではないだろうか。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『貞子』
全国公開中
出演:池田エライザ、塚本高史、清水尋也、姫嶋ひめか、桐山漣、ともさかりえ、佐藤仁美
※桐山漣の漣は「さんずいに連(しんにょうの点が1つ)」が正式表記
原作:鈴木光司『タイド』(角川ホラー文庫刊)
監督:中田秀夫
脚本:杉原憲明
配給:KADOKAWA
(c)2019「貞子」製作委員会
公式サイト:sadako-movie.jp
貞子公式Twitter:@sadako3d