【ネタバレあり】『アベンジャーズ/エンドゲーム』が描いた正義のあり方を考察

『エンドゲーム』が描いた正義のあり方

マーベル・スタジオならではの奇策

 本作の冒頭では、アベンジャーズのなかでは珍しく円満な家庭を作り出していたホークアイの悲劇によって幕を開ける。幸せな家族団欒の一場面が映し出されるなか、突然彼一人を残し、愛する家族が全員消滅してしまう。跡形もなくなった家族を探し回るホークアイの姿は、あまりに痛ましい。

 無作為に半分の生命が失われてしまった宇宙。この絶望のなかで、生き残ったアベンジャーズに残された道は、せめてサノスを処刑することで、消えた者たちのために、ほんのささやかな復讐をするくらいしかなかった。しかも、奇跡の力を持ったインフィニティ・ストーンはすでにサノスの手によって破壊されていた。「自分の役目は終わった」とばかりに、農場で穏やかな余生を送ろうとするサノスを数人がかりで拘束し、首を落とすヒーローたち。その姿は、失意にまみれたみじめなものだった。まさに、悪夢のような結末である。

 このままでは物語は、ヒーローの敗北に終わってしまう。そこから巻き返し、映画作品を成立させるのには、やはり消滅してしまった生命を復活させるしか道はない。だが、本作のシナリオのなかからだけでその方法を導き出すのでは説得力が薄く、それこそ「ご都合主義」だと言われてしまうだろう。そこで用意したのは、他のシリーズ作品において伏線を張っておくという試みだ。具体的には、『アントマン』及び、その続編『アントマン&ワスプ』において、“量子の世界”を事前に描いておくことである。(参考:『アベンジャーズ』シリーズへの重要な布石? 『アントマン&ワスプ』で描かれた量子力学を考察

 以前書いたように、極小の量子の世界は、人類の発見してきた物理法則が通用しない場所だ。その不思議さを紹介することで、本作では、この無秩序と思える法則を利用して、ミヒャエル・エンデの『モモ』を引用した「“時間どろぼう”作戦」をヒーローたちに立てさせることを可能にする。生き残ったヒーローがチームを組み、サノスが集め始める以前にインフィニティ・ストーンを集めてしまうことで、宇宙に復活の奇跡を起こそうというのである。そもそもインフィニティ・ストーンによる大虐殺そのものが荒唐無稽過ぎる能力だった。ならばそれを修復する荒唐無稽な力が存在しても良いのではないか。

 マーベル・スタジオの映画は、一作、一作が大作である。それを利用して伏線を張るというのは、なんとダイナミックな映画の利用法だろうか。これは、各作品の内容がクロスオーバーし、しかもそれぞれが大ヒットを達成している余裕があるからこそできる、マーベル・スタジオならではの、いままでの映画づくりではあり得なかった方法だ。だからこそ本作のシナリオは唯一無二であり、少なくとも、よくある「ご都合主義」とは別のものになっているといえるだろう。

 そして、ヒーロー側だけがこのようなズルい裏技を使っていいのかという疑問については、悪役側にも同じようなチャンスを与えることで、結局は現状に不満を持つ者同士の、過去の書き換え合戦、改変地獄に陥るはずだという問題を描いてもいる。これにより、復活劇はより緻密で納得のいくものになったといえよう。

ヒーローたちの意外な人間的成長

 そんなチャレンジングな内容ではあるが、本作は一つの映画作品として楽しめる要素も多い。なかでも打ちひしがれて失意のなかで5年間引きこもり、自宅でネットゲームにはまりながら、ビールとピザでまるまるとした体型になって自信を失ったマイティ・ソーのダメっぷりがケッサクだ。久しぶりに合流したアベンジャーズの面々に、「あの頃は俺もジェーン(ナタリー・ポートマン)と付き合ってたんだ……」と、神のくせに昔を懐かしんで感極まるシーンは、笑えると同時にせつなさが漂う。ついには、アライグマのような姿のロケットに「しっかりしろ」と平手打ちをされてしまう。

 また、怒れる超人ハルクが、年を重ねてすっかり落ち着いて、あの姿で理知的な紳士のようになっているのも面白い。アントマンことスコットが食べようとしていたランチのタコスが吹き飛ばされると、通りがかったハルクが代わりのタコスを、自然な態度で分けてくれるのである。もはや、最も気配りのできるヒーローではないか。

 暗い過去から自由になったブラック・ウィドウことナターシャが、アベンジャーズという“家族”を持つことで生きる希望を手に入れたり、いままで真面目一辺倒だったキャプテン・アメリカが、年齢なりの余裕を身につけ、要領の良さで窮地を切り抜けたりと、各ヒーローの特徴に、全く逆の性質が備わっている。そんな人間的成長が頼もしい。

 アイアンマンことトニー・スタークも、その一人である。最愛の娘が誕生し、小さな彼女を寝かしつけるときに「3000回愛してる」と言われ、思わず泣きそうなほど感激してしまうトニー。自信家で自己愛の強い彼だが、身近に守るべき存在が生まれたことで、世界を救うことへの決意が、ここでより強固になるのである。そして、自分の父親もまさしくそうだったということを、深いところで理解することになるのだ。

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