『なつぞら』はなぜ安心して観られる朝ドラとなったのか “定番”を覆した幼少時代の描き方

『なつぞら』“定番”を覆した幼少時代の描き方

 もちろん、柴田家の面々とて、すぐになつと馴染めるたけではない。同い年の夕見子は、なつを「ずるい」となじったし、泰樹がなつにだけ酪農のいろはを教えることで、照男は自分が祖父に頼られてないと感じたりもする。しかし、そんな小さな軋轢に対して、ひとつひとつ理由が明かされ、登場人物同士の誤解も解けていく。そこで密かにいい役割をしているのが、藤木直人演じる父親・柴田剛男であるとも思える。

 もともとは、「人の不幸は蜜の味」という言葉もあるほどで、フィクションではしばしば、主人公の不幸な状況、登場人物同士が理解ができない状況で人々の目を引くというものがあった。もちろん、視聴者として、それを楽しむ視線も持っていたのも確かだ。人と人との誤解やそこから生じる軋轢は、物語のスパイスどころか、本筋を変えるものにもなる。『なつぞら』にもそれはあるのだが、必ず誤解は説明によって解かれている。そんな物語の紡ぎ方が、とても心地よく、だからこそ安心して観ていけると感じるのだ。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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