平成ドラマ史を振り返る評論家座談会【前編】 “暗さ”を楽しめた1990年代と、俳優・木村拓哉

平成ドラマ座談会【前編】

戦争/昭和を物語として楽しめる距離感に

ーー今、朝ドラが100作目を放送していますが、平成の朝ドラはどうでしたか。

大山:90年代までは橋田壽賀子の時代なのかなというイメージも。90年代は朝ドラが停滞していた時代と言われていましたが、『春よ、来い』と『ふたりっ子』のヒットは話題になっていましたよね。

成馬:90年代も視聴率は高かったのですが、当時は民放ドラマが話題の中心で、NHKとテレ朝とテレ東のドラマは違う世界の出来事って感じでしたね。今みたいにテレビドラマが朝ドラを中心に回るような事態になるとは思わなかったです。

『ゲゲゲの女房』完全版DVD-BOX1

大山:放送時間が8時15分から8時スタートになった、ないしはBSで7時半から見れるようになったことはすごく大きいじゃないですか。見てから出勤できるようになった15分の差でも効果は歴然で、それまでは仕事に行かない人が見ている印象がありました。

田幸:『ゲゲゲの女房』(2010)からしっかり能動的に数字を取りに来ましたよね。放送時間の変更と、ど頭から民放のドラマのようなアバンタイトルを取り入れはじめたのと、『ゲゲゲの女房』以降実在するモデルがいる作品率が圧倒的に高くなっています。やっぱり馴染みのある人やものがモチーフになると、親しみやすく、強い面はありますね。この前の『まんぷく』(2018-2019)なんてチキンラーメンやカップヌードルですから、まさに一番馴染みのあるものですしね。

成馬:2010年になって、戦争の記憶や昭和という時代が遠のいて、物語として楽しめる程良い距離感になったんですよね。当事者がたくさんいる時だと生々しかったことが神話的なものとして客観的に捉えられるようになっている。1980年代までの朝ドラで描かれた戦争描写って、もっと生々しかったですよね。

『おしん』(1983)が熱狂的に受け入れられたのは、やっぱり当事者の目線だったからだと思います。2013年放送の『あまちゃん』と東日本大震災の距離感が、多分『おしん』と戦争の距離感だったと思うんです。逆にいうと『あまちゃん』はそのタイミングで00年代後半から続けて2011年の震災の日を描いたのがすごかった。宮藤官九郎さん(以下、クドカン・宮藤)は00年代に出てきた時は新進気鋭の若者のノリが書けるサブカル寄りの人という感じだったけど、震災以降の作品は構えが大きくなっていて、時代と向き合った作品を毎回作っている。。テーマが明らかに大きくなってるんですよね。だから『いだてん』では、オリンピックとも向き合う。

『あまちゃん』完全版DVD-BOX1

田幸:以前はどこかの若いお兄ちゃんみたいのような雰囲気で、テレビというメディアで存分に遊びながら、面白いもの新しいものをどんどん作ってましたよね。でも今はすごく背負わされている感じはします。

大山:山田太一がクドカンを後継者として見ていますよね。星野源と細野晴臣的な師弟関係みたいなのができているような感じがして。それが構えの大きさだったり朝ドラ、大河への意欲に繋がっているんですかね。

成馬:ドラマの脚本家の方に震災のことを聞く機会が何度かあったのですが、劇中で描くには作り手としての覚悟がいるという話は何度か伺いました。作家としてちゃんとお考えないと書けないし、書き方も問われる。宮藤さんは『11人もいる!』(2011)で真っ先に震災のことを書いたのですが、被災した小学生を登場させたのがすごかったですね。「あまちゃん」もそうですが、実在の芸能人を出す感覚で現実に起きた震災をドラマの中に取り込むのは、凄いなぁと思います。

大山:みんな、始まった時に気づきましたよね、『あまちゃん』はこのままいったら震災になるんだって。

成馬:みんなが体験していることをちゃんと書くっていうのはすごいと思います。ドキュメンタリー的というか。90年代とかに比べると、ドラマ自体が虚実との距離感が近くなってるのかなとは思いますよね。

大山:やっぱり70年代とかに戻ってるんじゃないですか? 戦争体験とか、70年代の刑事モノは全部犯罪者視点だったわけですから。

成馬:モデルがすぐに検索されちゃうのもありますよね。実在した人たちを題材にすると元ネタ探しが盛り上がっちゃう。それには一長一短があって、間違い探しばかり盛り上がっちゃう辛さもありますよね。だいたい職業モノの作品だと、この職業の描写が合ってるかどうかの論争みたいな感じになっちゃうので、もっとドラマとして楽しめばいいのにと、最近は思います。

大山:そういう意味では90年代から00年代前半のトレンディドラマは野島伸司さんがリードする時代、そこから堤幸彦さんがリードする時代がありました。そうすると、ジャニーズドラマの時代は特殊だったのかもしれないですね。1960-1970年代と2000-2010年代がひょっとしたら実は近くて、バブルの時代が特殊で、TVのパワーが異常に強かったというか。

成馬:平成特集って大体90年代ぐらいが一番熱量高いですよね。逆に00年代、10年代はあまりあまり振り返りたくないんだろうなぁって思います。

(取材・文・構成=大和田茉椰)

※後編(平成ドラマ史を振り返る評論家座談会【後編】 再編成される会社ドラマと、純度の高い恋愛ドラマ)に続く

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる