平成ドラマ史を振り返る評論家座談会【前編】 “暗さ”を楽しめた1990年代と、俳優・木村拓哉

平成ドラマ座談会【前編】

『ロンバケ』『HERO』平成を象徴する俳優・木村拓哉

成馬:『家なき子』の成功によって、ティーンドラマが発展されていきました。日本テレビ系の土9(土曜21時枠)は『金田一少年の事件簿』(1995、以下『金田一』)の演出を堤幸彦さんが担当したことがとても大きかった。『金田一』によってテレビドラマならではの独自の演出が生まれ、ミステリードラマというジャンルが確立され、ジャニーズアイドルを主演に起用する流れも広がっていった。

田幸:確かに『金田一』あたりからKinKiKidsの堂本剛さん、またその後、木村拓哉さんとジャニーズがかなりドラマを引っ張ってきた時代はありましたね。

成馬:アイドルって昭和の頃の主戦場は歌番組だったのですが、SMAPが登場したことで、歌以外の全ジャンルが主戦場となり、ジャニーズアイドルがあらゆる場所に進出した。俳優としては、木村拓哉、稲垣吾郎が最初に進出したことで、彼らを中心にしたドラマを作る流れが生まれました。一方で日本テレビの土9枠で、ジャニーズアイドルが主演を務める作品が増えていき、その影響で今までは大人向けだったテレビドラマのファン層が、10代まで降りてきた。その時にドラマを見ていた10代の若い人たちが卒業せずにその後もドラマを見続けているからこそ、00年代以降の発展もあったんだと思います。。どのジャンルでも若い世代を取り込む試みって大事で、ティーン向けの作品で種をまいておかないと、ファンが高齢化して後世に残らないんですね。

大山:その子たちが視聴者として残って、ジャニーズドラマの時代になった時に恋愛ドラマの時代が終わって、キャラクタードラマの時代になりましたね。

『ロングバケーション』

田幸:木村拓哉さんが2000年に結婚してから恋愛ドラマをやらなくなって、お仕事モノやヒーローモノになっていくのと同時に恋愛ドラマが終わっていったのを感じます。『ショムニ』(1998)などをきっかけとして、女性のお仕事モノが増えていく。00年代の前半になると恋愛モノでも、ちょっと笑える要素のある昼ドラが増えていくという。

成馬:北川悦吏子さんの全盛時代がどんどん終わっていく時期ですよね。『ロングバケーション』(1996、以下『ロンバケ』)はタイトルもよくできていて、“ロングバケーション=長いお休み”というタイトルが、後に「失われた20年」と呼ばれるバブル崩壊以降の日本の気分とシンクロしていたと思います。あの頃はみんな、“今は冴えないお休みだけど、これが終わればまた景気が良くなるんだ”と、どこかで思っていた。でもそれが20年続いている。下手すれば30年かって話ですけど、そういう引いた目で見ると時代を反映したドラマだったなぁと思います。

田幸:そう考えると北川悦吏子さんの『半分、青い。』(2018)は繋がりますね。キラキラのバブルイメージでしたけど、実は衰退していく様、失っていく様のほうを描きたい人なのかも。

成馬:『ロンバケ』の結末って、本当は2人を別れさせる予定だったというのも有名な話ですが、別れた方が、本質をついた作品になってたんじゃないかなって気はしますね。北川さんもそうですが90年代は三谷幸喜さん、岡田惠和さん、野島伸司さんといった、山田太一さんや向田邦子さんの作品を見て育ったドラマ脚本家が、作家性を開花させた時代だと言えますね。

田幸:クドカンさんの前に、まずドラマの世界に舞台の色を持ち込んだのが三谷幸喜さんですよね。90年の初頭に『やっぱり猫が好き』(1988-1991)を深夜で放送していて、そこから『振り返れば奴がいる』(1993)、『古畑任三郎』(1994)、『王様のレストラン』(1995)とかそれぞれ毛色の違うものを作っていました。舞台系の人が入ってくることで脚本力はもちろん、三谷さんの劇団のおなじみの顔ぶれをそのまま作品に持ち込むパターンがあった。その頃から今も続く、それぞれ演出家や脚本家がお馴染みのスタッフやキャストを集める「座組」が始まっていったのかなと。

成馬:視聴率で成功しているのは『古畑任三郎』ぐらいなんですけど、三谷さんの影響って実は大きいですよね。『ショムニ』(1998)や『HERO』(2001)といった職業モノが形作られていったのは三谷さんが持ち込んだオールドハリウッドスタイルの影響が大きくて、フジテレビの職業ドラマの根底にある演出や価値観は三谷さんが作ったところが大きい。『踊る大捜査線』(1997-2012、以下『踊る』)が象徴的ですが、フジテレビのドラマにはアメリカへの憧れがずっとあって、『ER緊急救命室』(1994-2009)等の海外ドラマの影響もすぐに取りいれる。それが『HERO』で花開いて、その時は同時に木村拓哉の時代でもあるかもしれない。俳優で平成を象徴する人を一人選べと言われたら木村さん。

大山:木村拓哉の演じている役柄がトム・クルーズの真似説というのがあって。レーサーだったりバーテン、ヘアカットだったり弁護士だったりっていう。トム・クルーズはそのあとダメなお父さんを映画『宇宙戦争』でやるんですけど、キムタクはそこに行かなかったんですよね。キムタクはやる役がなくなって南極へ行き、宇宙戦艦ヤマトに乗って最後はアンドロイドになるっていう。この地上に演じる役がなくなってしまった。

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