平成ドラマ史を振り返る評論家座談会【前編】 “暗さ”を楽しめた1990年代と、俳優・木村拓哉

平成ドラマ座談会【前編】

2000年代の裏エース「テレ朝」

成馬:日曜劇場とかだと、今も昭和感がウケてたりしますよね。

大山:最近の日曜劇場の『半沢直樹』とかサラリーマンものもそうですし、あと『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(2012-2017)とかも時代劇。

田幸:今の時代劇ですよね。

大山:今の50〜70代シニアは時代劇は見ないんですけど、1話完結のフォーマットは人気で例えば昔の時代劇でも『水戸黄門』(1969-2011)とか『大岡越前』(1970-1999)は体制側ですけど、それだけじゃなくて素浪人が出てくるような時代劇、『長七郎江戸日記』(1983-1991)とかがたくさんあって、今でいう『ドクターX ~外科医・大門未知子~』ですよね。

田幸:『水戸黄門』で時代劇枠がちょうど終わった後に『ドクターX ~外科医・大門未知子~』と『半沢直樹』があって。この辺りがちょうど昔と今の時代劇が入れ替わった境かもしれません。震災以降に、ちょっとスカッとする勧善懲悪の物語が増えていった流れがありました。また、ドラマの視聴者は昔は女性がメインだったと思うんですけど、男性がドラマの視聴者層に入ってきたのは『半沢直樹』あたりで、日曜劇場は男性が見るものになってきていますよね

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大山:日曜劇場とはダイレクトには繋がってはいませんが、00年代以降は『相棒』の時代でした。

成馬:『相棒』は続けたことが大きいですよね。第1シーズンの視聴率は当時としては高くはなかったのですが、毎年続けて、なおかつ再放送を続けたことで、ファンコミュニティがすごく分厚くなり、人気が盤石なものとなっていった。トレンディドラマ以降、1クール45分が定着してしまったので、続編を毎年作るという発想が他の局にはあまりなかったんだと思うんです。、そんな中、テレビ朝日(以下、テレ朝)の『相棒』はずっと続けていて2クールとか平気でやっている、長く続けるって意外に大事なんですよね。

テレ朝のテレビドラマって基本的に時代の流れに乗ってないですよね。90年代はティーン向けの枠が面白かったくらいで、トレンディドラマブームには乗っかってない。一方で土曜ワイド劇場や『はぐれ刑事純情派』(1988-2009)といったおじさん向けドラマ枠をずっと続けていた。当時はその理由が、よくわからなかったですけど、そういうドラマを好むファンが潜在的にいることを肌感覚で知ってたんでしょうね。

田幸:周りに合わせないでやり続けてきたことで勝手に時代が追いついてきたのか、それとも00年ぐらいから中高年にシフトを切って種を蒔いていたのか、そのあたりはわからないんですけど。

成馬:『踊る』が『相棒』になれなかったことが結構、ショックなんですよね。『踊る』も毎週毎シーズンやっていれば多分国家的なコンテンツになれたはずでした。

大山:刑事モノという見方をすれば、その前の『太陽にほえろ!』(1972-1986)とか『西部警察』(1979-1984)見てましたけど、やっぱりフォーマットが明らかに『『踊る』は違う。一話完結に見えても、1つのつながりでストーリーがあったから。できないと言うか、パロディみたいなものだった。

成馬:フジテレビは、『踊る』も『古畑任三郎』も定期的に続編を作っていたんだけど、『相棒』みたいには繋げなかったですよね。やっぱりテレビ局の資質とか座組とかの問題なんですかね。

大山:フジテレビは君塚良一さんや三谷幸喜さんのマンパワー頼りというか。一方でテレ朝は新しい脚本家のチームを作って交代でやったり、あるいは和泉聖治とか東映でたくさんVシネを撮っていたような人たちにドラマの監督をさせていていた。そこにテレ朝的な職人芸を感じますし、新しいドラマ作りが生まれたんだと思います。

田幸:上位にこんなにテレ朝ばかりが占めるような時代が来るとは思ってもみなかったですよね。でも、『相棒』や『科捜研の女』など、安定して視聴率を稼いでくれるコンテンツがあるからこそ、新たな挑戦ができるっていうのはあるかもしれない。

成馬:『相棒』等の刑事ドラマが安定して視聴率を稼いでいるからこそ、『おっさんずラブ』(2018)や『やすらぎの郷』(2017-)ができる。今のテレ朝は幅が広がってますよね。00年代をどう過ごしたかの差が明白に出てきている。だから、テレ朝って裏エースなんですよね。これは2000年のチャートだとわからない。

大山:その中でも『ゴンゾウ 伝説の刑事』(2008)みたいに変わったドラマもやるんですけど、結局なくなりましたよね。古沢良太さんとかは『相棒』から出てきましたし、ああいう尖った人が出てきてもその人たちがメインにならない。

成馬:平成にも昭和が混ざってるんですよ。平成一色にはならない。昭和の頃だと明治の人がいたわけですし、当たり前ですけど、どの時代も前の時代の名残は残っている。そうやってみると昭和ターゲットのドラマはいくつかありますよね。山崎豊子モノも明確に平成とは言い切れない。

田幸:でも、テレ朝は『相棒』とか『科捜研の女』(1999-)とかでちょっと中高年向けにシフトして、さらに昼ドラ『やすらぎの郷』で年配層を取り込んで。年齢層を高いところに広げてがっちり掴んでますね。

成馬:『トリック』(2000-2014)もそうですね。長く続いたのはテレ朝で放送されたからだと思います。『金田一』、『ケイゾク』(1999)、『トリック』があって、それぞれ局のカラーが出ているんですが、結果的に『トリック』が1番長く続いたシリーズとなった。深夜ドラマを広げたのもテレ朝の金曜ナイトドラマ枠ですよね。だから攻めるところと守るところが明確な気がします。

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