『まんぷく』は“定番”の朝ドラではない 反復と変化を描き続けた福田靖の革新性

『まんぷく』反復と変化を描き続けた革新性

 さらにもう1つ、ドラマ終盤において興味深いのが、夢と咲の登場頻度が今まで以上に増えていることだ。最も奇妙だったのが、144話における萬平の回転である。夢の中で突然世界が回転し、寝ている萬平は必死の形相でそこに留まろうとするが、天井側に回転してしまい、寝ている福子を上から見下ろすことで目が覚める。これによって、頭を悩ませていたカップ問題の答えが出て、まんぷくヌードルは完成することになるのだが、だからと言ってテレビ画面を回転させるほどのインパクトをもって描く必要がどこにあったのか。どこか臨死体験めいた印象さえ感じさせる。

 そして、終盤に近づくにつれて輝かんばかりの美しさと若々しさを放つ咲は、遂に真一(大谷亮平)や忠彦まで夢の中に呼び寄せ、万博のチケットを渡し「一緒に行きましょう、真一さん」となんだかドキリとする台詞を言って微笑む。そして気軽な調子で母親・鈴をあちらの世界へ招き、鈴は嬉々として生前葬をやりたがるのである。

 思えば『まんぷく』は、常に明るい死者と共にあった。鈴や福子の思いが形を成しているのであろう、むしろ生きていた時よりも明るい、時折未来まで予見するスーパー死者と。さらには、鈴の生前葬という名の祭りで、このドラマ自体を振り返る。死は決して悲しいことではない。今まで会った人々に感謝をして次に進むことなのだと暗に告げる。なぜなら、彼らが求めさえすれば、夢でいつでも会えるのだから。朝ドラは一代記が多いために、最終週と死はわりと密接に絡み合う。だがこの『まんぷく』が描く「死」というものの身近で愉快な感じは一体何なのだろう。

 経営するレストランの壁にまで「皆様のおかげでここまで来られました。ありがとうございます 本当にありがとうございます」と感謝しきりの野呂(藤山扇次郎)という、ただひたすらに愛すべきキャラクターがいる。一方で、「我を捨ておかげに生きる」ことが到底似合わない世良や、最初に萬平を裏切った加地谷(片岡愛之助)といった本来なら悪人と定義され切り捨てられかねないキャラクターも実に愛すべき存在として描かれている。

 変わらないことを繰り返すことで何かを変えていくこと。そして、人生・社会・人において、変化を許し、受け入れるおおらかさを持つこと・感謝をすることの大切さこそが、『まんぷく』が半年を通して一貫して伝えてきたことなのかもしれない。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『まんぷく』
10月1日(月)〜2019年3月30日(土)【全151回】
作:福田靖
出演:安藤サクラ、長谷川博己、松下奈緒、要潤、大谷亮平、桐谷健太、瀬戸康史、岸井ゆきの、松井玲奈、深川麻衣、加藤雅也、牧瀬里穂、松坂慶子、小川紗良、西村元貴ほか
語り:芦田愛菜
制作統括:真鍋斎
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/mampuku/

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