『さすらい温泉』は遠藤憲一の“究極の役者魂”を堪能できる!? テレ東モキュメンタリーの到達点に
『さすらい温泉』は、そんな遠藤が俳優を引退して温泉の仲居になるという衝撃的なナレーションからはじまる。スタッフの質問にだんまりを決め込む遠藤。スタッフは親しい友人に話を聞くが要領を得ず、真相をたずねてたどり着いたのは温泉郷だった。
モキュメンタリーの手法を踏襲した『さすらい温泉』は2つのフィクションと1つの真実によって構成されている。
フィクションの1つめは、遠藤憲一が俳優をやめて温泉の仲居になるという設定で、『山田孝之の東京都北区赤羽』にも通じる。2つめは温泉である。日常から離れた温泉は虚構の舞台に最適化されており、『バイプレイヤーズ』のシェアハウスに相当するのが温泉宿である。
ここまでなら架空のストーリーを演出するという一般的なモキュメンタリードラマの延長線上にすぎない。しかし『さすらい温泉』がユニークなのはこれ以降の展開にある。
遠藤憲一演じる「健(けん)さん」は依頼を受けて各地の名湯に赴く派遣の仲居。一話完結の『さすらい温泉』では、各話にワケありのヒロインが登場する。彼女たちの悩みを聞き、ひと肌脱ぐことを決意した健さんは、愛用のトランクに収められた道具を使って数々の芸当を披露する。
豪華客船の船長やドルオタに扮するにはじめ、時に反抗期の子どもを抱きしめ、漫才を披露し、板前として料理対決に臨む。一期一会の出会いでたった1人のために“演じる”姿は、俳優としての原点を思い起こさせる。温泉の仲居になっても役者としての魂は失われないのだ。『さすらい温泉』における1つの真実とは、現実もフィクションも超越した「演じる人」としての遠藤憲一自身なのである。
第五話で、佐々木すみ江演じる89歳の老婦人の頼みを聞いて、健さんが戦死した婚約者に代わって思い出の湯に入浴する場面がある。温泉につかって在りし日を偲びながら、老婦人は17歳の娘に姿を変える。もちろん現実に起こり得ないことはわかっていても、その虚構の中に真実があることを2人は知っているのだ。
このように『さすらい温泉』はテレビ東京が培ってきたモキュメンタリードラマの到達点であり、『湯けむりスナイパー』で10年前に連ドラ初主演を果たした俳優・遠藤憲一にとって原点回帰の意味合いを持つ作品なのである。
「極上のおもてなしを提供いたします」という健さんの言葉は、現実からフィクションへのスイッチの役割を果たすと同時に、1人のために演じるという究極の役者魂を示しているのではないだろうか。
■石河コウヘイ
東京都出身のエンタメ系ライター。年間ドラマ視聴数は50作品以上。三度のメシとエンタメが好き。
■番組情報
ドラマパラビ『さすらい温泉 遠藤憲一』
テレビ東京で毎週(水)深夜1時35分 ※BSテレ東では2019年4月クールに放送予定
主演:遠藤憲一
脚本:田中眞一
監督:後藤庸介
プロデューサー:阿部真士
制作:テレビ東京/コギトワークス
製作著作 :「さすらい温泉 遠藤憲一」製作委員会
■商品情報
『さすらい温泉 遠藤憲一』DVD-BOX
2019年7月3日(水)発売
DVD BOX(5枚組)¥16,200円+税
※DVDレンタル同時スタート
発売元:「さすらい温泉 遠藤憲一」製作委員会
販売元:ポニーキャニオン
(c)「さすらい温泉 遠藤憲一」製作委員会