遠藤憲一、大杉漣、松重豊らが面白い 映画好きにはたまらない『バイプレイヤーズ 』の魅力

 遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研という日本の映画・ドラマ界を支える名脇役6人が結集した話題のドラマ『バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』(テレビ東京系)も7話が終了し、物語が核心に迫る新たな展開を迎えている。大人の渋さでは日本最強と言える布陣がシェアハウスで暮らすというのだから、映画やドラマ好きにはたまらない。彼らがいるだけでとにかく絵になるこのドラマの面白さを改めて考察してみたいと思う。

 中国の動画配信サイトから『七人の侍』のリメイクのオファーを受けた遠藤(55歳)、大杉(65歳)、田口(59歳)、寺島(53歳)、松重(54歳)、光石(55歳)の6人。主演に役所広司、監督に中国映画界の巨匠チャン・イーモウを予定している。監督からの要望は「役作りで絆を深めるために、シェアハウスで3か月間共同生活を送る」ことで、6人は大杉が持つ別荘に共同生活を始めた。実はこの6人は10年前に『バイプレイヤーズ』という映画で共演し、撮影中にぶつかり合い、制作を頓挫させた過去がある。未だに疑念やしこりなど不安がある中での共同生活。しかし大杉には真の目的があり、保管していた『バイプレイヤーズ』のフィルムを盗んだ犯人探しのための共同生活でもあった、という内容。(4話で犯人探しのことは全員にバレて大杉は謝罪している)。

 このドラマの面白さは、出演している名バイプレーヤーたちが、本名で本人役として登場していることに尽きる。バイプレーヤーとは言え彼らは知名度が高く、NHK大河ドラマから深夜ドラマまでこなし、今では連ドラで主役もはってしまうほど、最も必要とされる俳優たちだ。最近では、強面で撃ち合いの多いVシネや北野映画、『孤独のグルメ』(テレビ東京系)や『深夜食堂』(TBS系)などの深夜ドラマのコンテンツは、動画配信サービスで頻繁に配信されており、それらに需要が多い6人は、若い人にも知名度がある。テレ東の深夜ドラマに、彼ら6人が集合した時点で勝利確定。正直ギャラが心配になってしまうほどのキャスティングだ。オープニングで、10-FEETの楽曲「ヒトリセカイ」に合わせて、映画『レザボアドッグス』のようにスーツ姿の6人がスロー映像で歩く様は、これだけでもうマニアとってはご飯3杯はいける満足感とかっこよさがある。

 「このドラマはフィクションです。実在の人物・団体等とはあまり関係ありません。」“あまり関係ない”とドラマの最後にテロップが出ることを前提に、ドラマにおけるそれぞれのキャラは、大杉が最年長でみんなに慕われているリーダー的存在であり、温厚だが時に激しい思い込みで暴走し、そして落ち込むというかわいいおじさん。繊細な遠藤と温厚な松重は「キャラが被っているため共演NG」とネタにされるほど、共演することが珍しいふたりだ。人懐っこい愛されキャラだがすぐ共演者に一目惚れをし、芸能スキャンダルが心配な光石に、普段は飄々としているが役作りは公私関係なく徹底し、演出に辻褄や理屈が合わないと決して曲げない変人という田口、江戸っ子のように一見ガサツで強気な寺島は、実は人思いで寂しがりやなシャイおじさんという性格だ。

 先日放送された寺島をフィーチャーした第7話は、俳優界では悪役の兄貴キャラとして慕われている寺島が、保育園生の幼い兄妹からファンレターが届き、そのふたりに会いに行くという話。会いにいった幼い兄妹が「殺し屋の友達」とからかわれていた姿を目撃してしまった寺島は、責任を感じ悪役を辞める事を決意する。根が優しく、子を持つ親でもある寺島の俳優としての葛藤を描く。

 毎回様々なジャンルの劇中劇が登場し、主演の6人だけでなく、豪華俳優陣が本人役でゲスト出演するのもこのドラマの見どころだが、今回は同じ北野組とも言える椎名桔平や、後輩の悪役役者である本宮泰風と山口祥行、映画『共喰い』やドラマ『深夜食堂』などで女性のバイプレーヤーとして注目を集めている篠原ゆき子、そして北野組で名を挙げ、現在オフィス北野に所属する寺島にとって神様的存在である北野武……ではなく、武のものまねをする松村邦洋が登場した。松村が、「俺のオファー受ける前から断ること考えてるんじゃねえよ、さっさと悪役やれよ! お前の悪役最高だからよ」と寺島を叱咤激励をするのも憎い演出。北野組らしく語尾に「この野郎」と付けてみんなで激励する姿にはニヤリとさせられた。人としての寺島の良さを引き出すだけでなく、映画デビュー作である松田優作監督作品『ア・ホーマンス』や、『ソナチネ』、『BROTHER』など、寺島のキャリアポイントとなる作品の話もしっかりと取り上げられているのだ。短い時間ながらもしっかりと役者・寺島のルーツを紹介していることろに、このドラマの役者愛が感じられる。

 また、第7話ではほかのメンバーもいろいろと悩んでいた。光石は雑誌の袋とじのグラビアに毎週悩まされ、こだわり派の田口は入浴剤を何にするかで頭を抱え、遠藤は「え?」という一言のセリフにつまずき、松重が何度もレクチャーをするというやり取りをしていた。それぞれの個性を活かすちょっとした演出が面白い。特に遠藤と松重のコンビは、無邪気に窓掃除をしたり、一緒に釣りをしたりと、ふたりのシーンが多いのがファンにはたまらないのだ。

 そして、物語終了後にメンバー揃って行う、放課後トークもまたこのドラマの魅力の一つ。田口トモロヲ回の第4話でのトークは、劇中では役作りに徹底して自分の意見を曲げない偏屈キャラという田口が、「こういう人はめんどくさい」「芝居ってキャッチボールだから相手があってのことだから、自分の中で構築してもね……他人の風に吹かれて流れて行かないと」とドラマ内のキャラと自分が違うことを話している。あくまでもこのドラマで描かれているキャラは、視聴者がこうだろうなと思っているキャラを演じているだけなのだ。また寺島が「トモロヲ」と呼び捨てにすると「いちおう俺、先輩だから」と言うように、田口はメンバーから2番目に歳上の59歳。こういった年齢やキャリアの複雑な上下関係が知れるのもこのドラマの面白さである。もちろん、役者としての裏話や「真田広之の殺陣はうまい」といった役者の逸話、遠藤が「やっぱり主演は全体を見渡さなくてはいけない」と脇役との違いなど、役者の本音が聞けるのも魅力的だ。

 映画やスペシャルドラマでオールスターキャストものがあっても、短い時間だと個性が活かしきれず、パッケージとして失敗することが少なくない。このドラマを観て思う事は、連ドラなだけにそれぞれの俳優としての個性が丁寧に描かれ、しかも視聴者が思っているイメージの自分を演じているからこそ面白いということ。きっとそれぞれの役者として負けられないものは心の底にあるはずだが、その素振りを見せずに「脇役ばっかじゃねぇよ、主役やってるよ。松重だって、遠藤だって!」「テレ東だろ?」「NHKなら僕も」「あんたBSだろ?」などといった上辺の意地の張り合いを演じる巧さ。そして役者愛に満ちあふれている演出も素敵である。

 さてドラマは、7話で『七人の侍』の企画は当初から頓挫していたことが判明し、全て大杉の嘘だったことが発覚。この物語の根底を覆す出来事が起こり、当初の設定の意味がなくなったバイプレイヤーズ。いったい物語はどこへ向かっていくのか楽しみだ。しかし『バイプレイヤーズ』からの『山田孝之のカンヌ映画』というテレ東金曜深夜90分間の流れは、映画・ドラマ好きとしては珠玉の時間である。

(文=本 手)

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