『グッドワイフ』歴代日曜劇場作品と何が違う? 日本向けにローカライズされた物語から考える

日本版『グッドワイフ』の最大の魅力とは?

 本作は2009~2016年にかけて放送された海外ドラマ『The Good Wife』をリメイクしたもので、設定や劇中に登場する事件はSeason1のエピソードを参照しているのだが、細かい部分は日本向けにローカライズされている。

 一番の違いは夫の州検事の女性スキャンダルの見せ方が明け透けで、えげつないところだろう。例えば海外ドラマ版では夫の浮気相手がコールガールで、トーク番組で夫との性行為を語る場面が登場する。このあたりは日本版とくらべるとかなり露骨なのだが、主人公のアリシアの性格がカラっとしていてタフなので、見ていて爽快ですらある。

 対して、日本版『グッドワイフ』には、ジメッとしたなんとも言えない奇妙な手触りが節々に現れる。これは杏子を演じる常盤の抑制された奥行きのある演技によることが大きいのだが、アリシアに比べると杏子は、主婦から弁護士という同じキャリアを辿っていても、どこか控えめでおとなしく、自分のことを強く主張するタイプではない。

 だが、一方で夫の浮気(=家族を裏切ったこと)に対しては、強い嫌悪感を抱いており、その一点においては頑固だ。弁護士としては聡明で、細かい目配せも効き駆け引きもできるのだが、絶対に譲れない頑なさを持っているのだ。

 印象に残っているのは第4話。夫の冤罪以降、疎遠となった親友の女性の息子を弁護することになり、容疑を晴らした後、その女性から「今度、ランチしない、また昔みたいに」「電話する」と言われるのだが、杏子は「口だけでしょ」「きっと電話なんかくれない。でもいいのよ。世の中なんてそういうものだって、私も気づいたから」と拒絶する。

 このエピソードは海外ドラマ版にもあり、物語の展開は同じなのだが、受ける印象はだいぶ違う。このシーンには杏子の頑なであることの強さと恐ろしさが同時に現れており、この人は「許せないものは絶対に許せない」という人なんだろうなぁと思わせる。

 杏子を演じる常盤は90年代から活躍する人気女優だが、こういう恐さをはっきりと見せるようになったのは、ここ10年くらいではないかと思う。中でも印象に残っているのは連続テレビ小説『まれ』(NHK総合)で演じたヒロインの母親・津村藍子だ。藍子は大泉洋が演じるダメな夫を支え、娘の夢を応援する優しくて明るいお母さんなのだが、時々、なんとも言えない恐い表情を見せるシーンがあったのを、今でも覚えている。

 この『まれ』の脚本を担当したのは、『グッドワイフ』と同じ篠崎絵里子だ。『まれ』とくらべると、本作はリーガルドラマというフォーマットに忠実な隙間のない作品で、本来ならば、あまり作家性が強く出るタイプの作品ではないのだが、物語の節々にジメっとした手触りが漏れ出す瞬間がある。それは紛れもなく篠崎の作家性で、このジメっとした人間の手触りこそが日本版『グッドワイフ』が持つ最大の魅力ではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
日曜劇場『グッドワイフ』
TBS系にて毎週(日)21:00〜21:54
出演:常盤貴子、小泉孝太郎、水原希子、北村匠海、滝藤賢一、賀来千香子、吉田鋼太郎、唐沢寿明
脚本:篠崎絵里子
チーフプロデュース:瀬戸口克陽
プロデュース:東仲恵吾
演出:塚原あゆ子ほか
原作:based on “The Good Wife” produced in the United States by CBS Television Studios in association with Scott Free Productions and King Size Productions, and distributed by CBS Television Distribution” 
制作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/the_good_wife2019/

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