松江哲明の“いま語りたい”一本 第37回
阿部進之介×山田孝之の熱意が刻まれた1作 『デイアンドナイト』は善悪の“隙間”を描く
その中心にいたのは間違いなく企画・主演を務めた阿部進之介さんでしょう。故郷に帰ってきて次々にさまざま登場人物と相対していく明石は観客の分身でもあるわけです。明石以外の登場人物は、全員“二面性”があります。安藤政信さんをはじめ、山中崇さんや田中哲司さんは、振り切れる演技もできる分、観客に今までに見せたことのない顔を見せることができて、正直“美味しい”。でも、阿部さんは周りが振り切る演技をする中で、文字通りすべてを受け止めている。阿部さんの受け止め方ひとつで映画のトーンが変わってしまう難しい役を見事に演じられていました。
阿部さんの受け止め方がいいので、共演者の方たちもそれに応えるかのような演技をしています。特に印象に残っているのが清原果耶さん。明石が手伝うことになる児童養護施設で暮らす少女・奈々を清原さんは演じているのですが、子どもでも大人でもない、17歳の女性を見事に体現している。奈々が明石に近づいていって、「彼女になってあげようか?」と声をかけ、明石が戸惑っていると「嘘だよ、ロリコン」と返す。すごく淡々としたシーンなのですが、奈々の大人びた性格、自分を俯瞰している様子が、あの台詞だけでよく表現されている。そういった何気ない台詞一言一言が、本作では登場人物の生き様としてちゃんと描かれているんです。
「善と悪」をテーマに掲げた作品の中には、社会を悪にして声高に叫ぶだけのものがあります。しかし、私たちが生きる現実社会の中で、善と悪の二択だけで済ませることができるものは決して多くはありません。本作は答えを出すことの危うさを理解しながら、それでも理不尽なものがはびこる社会に向けて、なぜ? という疑問を正直にぶつけてくる。観客に考えることを求めてくるのです。その潔さと誠実さに心打たれました。『デイアンドナイト』というタイトルですが、描いているのはその間にある短くも明るく美しい光、または暗くなりかけている闇を探しているかのようでした。白黒はっきりしたものが求められる時代だからこそ、その隙間を描くことは大切だと思います。そこにしか居られない人間もいるのです。この映画の登場人物たちのように。
(構成=石井達也)
■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作は『このマンガがすごい!』(テレビ東京系)。
■公開情報
『デイアンドナイト』
全国順次公開中
出演:阿部進之介、安藤政信、清原果耶、小西真奈美、佐津川愛美、深水元基、藤本涼、笠松将、池端レイナ、山中崇、淵上泰史、渡辺裕之、室井滋、田中哲司
企画・原案:阿部進之介
プロデューサー:山田孝之、伊藤主税、岩崎雅公
監督:藤井道人
脚本:藤井道人、小寺和久、山田孝之
制作プロダクション:and pictures inc.
制作協力:プラスディー、BABEL LABEL
配給:日活
(c)「デイアンドナイト」製作委員会
公式サイト:https://day-and-night-movie.com/