決して早足ではない2時間で描く10年 韓国映画『君の結婚式』はどの年代にも刺さるものがある

『君の結婚式』はどの年代の人にも刺さる

 しかし、そんな情けない姿も、相手が大人になる中で別の人と恋愛している姿も、すべて隣で見続けた2人だからこそ、高校時代にただ好きと思った気持ちとは違う思いも生まれてくる。相手のことを神聖視するばかりに、自分の気持ちだけが大きくなるような時を過ぎて、相手も1人の人間で、かっこ悪いところだってあるということも理解した上での、友情が生まれる場面も丁寧に描かれる。

 ただ、恋愛は、単に理解が深くなるというだけでは成立しにくい。スンヒは大学時代の彼氏とのなれそめについてウヨンに聞かれ、「運命ってたった3秒で訪れるんですって」と語る。もちろんこうした運命を感じる衝撃については、日本でも「ビビビときた」などと表現することもあるのだが、瞬間のときめきと、長い年月をかけて育んだお互いへの理解は、どちらが強いのか……。そんなことをふと考えさせる映画にもなっている。

 2時間で10年を描くというのは、普通は駆け足にも感じるものだが、2人の成長を見ていると、決して早足とは感じなかった。それどころか、2人のような経験のあるなしにかかわらず、次第に我がことのようにも思えてくるから不思議だ。

 それは、この2人に10年で起こる出来事が、単にキラキラとした出来事だけでなく、かっこ悪いところも見せ合ったり、そのことでときめきだけではない親愛の情を見出したり、タイミングで気持ちがあってもどうにもならないことがあったり、好きだからというだけでは乗り越えられない何かがあったりと、誰の経験にもつながる甘いだけではない出来事が丁寧に描かれていたからだろう。

 そんな10年の姿を、あくまでもさりげなくその当時の世相や文化もちりばめながら描き、またパク・ボヨンとキム・ヨングァンという2人の俳優が演じているのも良い。周りの友人たちも含めて、しっかりと人間的成長と変化を感じさせている。

 かつては、韓国から来た俳優や監督に日本の映画やドラマに流れる日本特有の良さについて聞くと、「何も大きな事件が起こらないのに、でも何かが残るところ」だという人は多かったが、今の日本の恋愛ドラマの状況は果たしてそうなのだろうか。

 この『君の結婚式』という作品は、大きな事件は起こらないが(もちろん、小さな事件が2人の関係性を変えることもある)、登場人物たちのさりげないやりとりから、気持ちの変化がしっかりと見えるようになっていた。だからこそ、青春の真っただ中にいるわけではないような、どの年代の人が観ても、刺さるものがあるのだろう。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■公開情報
『君の結婚式』
3月1日(金)シネマート新宿ほかにてロードショー
キャスト:パク・ボヨン、キム・ヨングァン、カン・ギヨン、コ・ギュピル、チャン・ソンボム
監督・脚本:イ・ソックン
配給:クロックワークス
2018年/韓国/110分/カラー/ビスタ/5.1ch/日本語字幕:金仁恵/英題:On Your Wedding Day
(c)filmK CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://klockworx-asia.com/weddingday/

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