何がSFラブストーリーを成立させた? 『九月の恋と出会うまで』高橋一生と川口春奈の“瞳”の名演

『九月の恋と出会うまで』高橋&川口の瞳の名演

 大切な人を想うがあまり、強く傷つけてしまうこともある。切ない嘘を乗り越える2人が瑞々しく描かれたSFラブストーリー『九月の恋と出会うまで』は、そんな恋心のジレンマを深く描いた作品であった。

SF? ファンタジー映画?

 タイムリープを題材に恋愛要素を盛り込んでいく複雑な作品ながらも、鑑賞者が主人公の2人と一緒にロジックを追いかける構成で、安心して物語に没頭できる。タイムパラドックスについての理論的説明も劇中でなされ、複雑なストーリーに置いていかれない工夫がされていた。

 また、ファンタジー映画を観ているようなファンシーな要素も多い。SFを扱った本作が無骨でロジカルにならない所以は、衣装や美術に隠されていた。登場人物の嗜む芸事や、着ている衣装のかわいらしさ、住んでいる家の外観、シャボン玉が舞う校舎など、現実からはかけ離れた突拍子のなさがあるが、リアリティの欠如で集中力を欠くほどではない。むしろ、こういった”世界観”の徹底された様子が、より作品のSF的な要素に没入できる重要な役割を担っていた。リアルを追求するがあまり、設定が浮いてしまうこともなく、バランスよく描かれていたのだ。

 本作が扱うタイムパラドックスとは、時間を遡って過去の出来事を変えてしまった時に、現代で起こる矛盾のことを指す。有名なものに「親殺しのパラドックス」というものがあり、子が自分が生まれる前の親を殺すことで子が生まれなくなって起こる矛盾を説明したものだ。タイムパラドックスは、SF作品をよりドラマチックに彩り『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などでも扱われた題材である。

 劇中で平野を演じたのは高橋一生、そして北村には川口春奈が抜擢された。一見、年の差を感じさせる2人であったが、リードするようなはっきりとした口調の川口と、引っ込み思案な高橋の芝居はバランスがよく観ていてテンポが良かった。以下、重要なシーンのネタバレになるため注意していただきたい。

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