何がSFラブストーリーを成立させた? 『九月の恋と出会うまで』高橋一生と川口春奈の“瞳”の名演
高橋一生と川口春奈の涙の演技
物語は、北村が未来の平野から語りかけられ、北村の身の危険を回避するように仕向けてもらうところから始まる。しかし、平野の行動でタイムパラドックスが生じてしまうので、その矛盾を解消するために奔走する。“未来の平野”と名乗った人物が本当に平野だったのか、“未来の平野”になって北村を救ってくれる人は見つかるのか、そんなシーンで現在の平野は北村にキツい嘘をつく。自分はもう北村とは関わりたくないし、“未来の平野”にもなれないと。平野に淡い恋心を抱いていた北村はボロボロと大粒の涙をこぼす。
川口はショックのあまり傷つく女性をまっすぐな瞳で演じた。さらに高橋は、そんな平野の切ない嘘に心を痛め、部屋で号泣するシーンがある。どちらの涙も、力強く豪快で、心の底から傷ついた様子が手に取るようにわかった。そんな涙に誘われて、思わず一緒に泣き出してしまった観客も多かったのではないだろうか。しかし最後に2人はタイムパラドックスを解消し、結ばれる。盛大なロジックのネタバラシと共に浜辺できつく抱きしめ合う2人はとても美しく、心を打つ。
悲しいだけの物語ではなく、2人の心が惹かれ合う様子が丁寧に描かれグラデーションのように広がる。北村が平野に惹かれていく様子は手に取るようにわかるし、平野もまた北村に惹かれていく理由がわかる。SFの恋愛物語となると、情報が多すぎて恋愛描写への集中力を欠くケースもあるが、ロジックはしっかりと説明され心ゆくままに作品に浸ることができる。誰かを心から愛することに背中を押される映画だ。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■公開情報
『九月の恋と出会うまで』
全国上映中
主演:高橋一生、川口春奈
出演:浜野謙太、中村優子、川栄李奈、古舘佑太郎、ミッキー・カーチス
原作:松尾由美『九月の恋と出会うまで』(双葉社刊)
監督:山本透
主題歌:androp「Koi」(image world / ZEN MUSIC)
配給:ワーナー・ブラザース
(c)松尾由美/双葉社 (c)2019 映画「九月の恋と出会うまで」製作委員会
公式サイト:http://kugatsunokoimovie.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/9koi_movie