『いだてん』中村勘九郎の清々しい笑顔の裏側 田口トモロヲの“優しい嘘”がマラソン人生へと導く

『いだてん』田口トモロヲ&中村獅童の好演

 病弱な父に代わり金栗家を支えてきた長男・実次の、四三に対する愛のある叱咤も、病弱だった四三を変える大きな要因である。病弱な四三は往復12キロの通学を諦めようとするが、そんな四三を見かねた実次は「勉強部屋で勉強するか、学校へ行くために走るか」と彼を叱る。涙を流しながら走る四三の背中が映るが、実次の叱咤がなかったら四三は病弱なままだったかもしれない。その後、走りやすい呼吸法をマスターした四三は、楽に山道を走れるようになる。高等学校へ進む頃には「いだてん通学」がごく自然なものになっていた。父・信彦が亡くなる直前、実次は「四三は進学させてやりたい」と話していた。中学校へ進んだ四三が「海軍兵学校を受験したい」と話したとき、実次は彼の決意を認める。実次の厳しさは、たくましく成長する四三への期待の現れなのだ。

 身体検査に合格するため、毎朝「冷水浴」を欠かさない四三の気合いと、検査に落ち「みんなの期待ば背負うて海軍ば受けたばってん……合わせる顔のなかです」と茫然とする彼の背景には、父の下手くそで優しい嘘と、兄の厳しくも優しい叱咤がある。家族の期待を背負ったことで出来上がった彼の人間性は、今後の物語に大きく関わってくるはずだ。

 主人公・四三を演じる中村は、中学校へ進学するところから子役とバトンタッチした。少年時代の無邪気さをそのまま受け継ぎ、満面の笑みで山道を駆けぬける中村の姿は清々しい。第3話以降は、病弱な少年時代を乗り越えた四三のマラソン人生がドラマの根幹となるだろう。第2話終盤、東京高等師範学校の校長が嘉納であることを知った四三。父の下手くそで優しい嘘が”本物”になる瞬間は近いかもしれない。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45 
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45 
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/
写真提供=NHK

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