“狂気”を孕んだウィリアム・フリードキンの傑作 松江哲明の『恐怖の報酬』評

松江哲明の『恐怖の報酬』評

 『恐怖の報酬』が公開された1977年は、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』が公開された年です。『ジョーズ』のスティーブン・スピルバーグ、『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスの登場から、ハリウッド映画は娯楽作へと突き進んでいきます。私はスピルバーグもルーカスの作品も大好きですが、彼らではなくフリードキンのような作家がまだ受け入れられていたら、映画はまた違った進化をしたのではないかと、今回の『恐怖の報酬』を観て考えました。映画が観客がいて成り立つものである以上、作家の思いだけでは続けることはできません。スピルバーグたちが選ばれたのは必然だったと思いますが、その結果が現在のユニバース化したハリウッド映画にも繋がっていると思います。作家の欲望よりも、観客のそれが優先されていったのではないでしょうか。そこがハリウッド映画の凄さであり、その枠に収まらない作品も生まれていくのですが、フリードキンが本作で行ったような作り方はもう出来なかったし、今でも不可能でしょう(もしかしたら中国ではそんな映画が生まれるのでは、と期待しているのですが)。

 改めて『恐怖の報酬』のような映画を観ると、「お前らそんなおもちゃ(映画)で楽しんでる場合じゃない、これを観ろ!」と怒鳴られているかのように感じますね。マイケル・チミノの『天国の門』、フランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』のリバイバル上映が多くの観客を集めたのも、現在の“失敗しない映画”とは真逆の溢れんばかりのエネルギーがあったからだと思います。そして今、上映される意味もそんなところにあるんじゃないでしょうか。

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(構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作『このマンガがすごい!』がテレビ東京系にて放送中。

■公開情報
『恐怖の報酬』【オリジナル完全版】
シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開中
出演:ロイ・シャイダー、ブルーノ・クレメル、フランシスコ・ラバル、アミドゥ
監督・製作:ウィリアム・フリードキン
脚本:ウォロン・グリーン
原作:ジョルジュ・アルノー
音楽:タンジェリン・ドリーム
提供:キングレコード
配給:コピアポア・フィルム
原題:Sorcerer(魔術師)
1977 年/アメリカ映画/カラー/ヴィスタサイズ/5.1ch/DCP/121分
(c)MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.
公式サイト:SORCERER2018.com

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