町田啓太は“2.5枚目”キャラがハマる? 『中学聖日記』有村架純と吉田羊に向ける絶妙な困り笑顔
町田啓太の躍進が止まらない。今年に入ってNHK大河ドラマ『西郷どん』を筆頭に数々のドラマに出演。中でも現在放送中の『中学聖日記』(TBS系)は回を重ねるごとに視聴者の熱も急上昇。物語の行方を担うキーマンとして、町田の存在にも期待が高まっている。
町田が演じる川合勝太郎は、主人公・末永聖(有村架純)の元婚約者。エリート商社マンだが、傲慢なところは一切なく、自ら婚約破棄を切り出した聖と3年ぶりに再会を果たしても、責めるどころか自分の幼さを詫びる、非の打ちどころがないような“いいヤツ”だ。こうしたパーフェクトキャラは、ともすると隙がなさすぎて面白みに欠けたり嫌味になりがち。そこにちゃんと愛嬌をプラスして、人間味あるキャラクターに仕上げているところが、町田啓太の巧さだと思う。
愛嬌と人間味、そして大人の理性も表現する絶妙な困り笑顔
ポイントは、絶妙な“困り感”だ。遠距離恋愛という物理的な障害に加え、黒岩晶(岡田健史)の出現により、聖と勝太郎の間には微妙な距離が。たとえば、第2話のテニスシーンで、「もしかしたら、彼女、距離感じてるのかもしれないよ」と原口に指摘されたときの、口元は笑っているんだけど、思わず目線を外すところ。あるいは、第4話の花火大会で、原口に「ほしくなった、川合が」と迫られたときの、表情がゆっくりと消えて、一瞬硬直した後に真面目な顔で原口を見るところ。どれも小さなリアクションだが、その小さな困惑のリアクションを積み重ねていくことで、ただの万能人間ではない川合勝太郎らしさが出ている。
中でも、あの目尻の皺たっぷりの笑顔が印象深い。特に第4話の出張シーンで、聖との関係を怪しむ原口に「問題ありならノック2回ね。壁叩いて」と命じられたときの「おやすみなさーい」という張りついたような笑顔は最たるもの。見るからに人の良さそうな町田の笑顔は、困ったことは作り笑いでスルーしようとする勝太郎の事なかれ主義な性格をうまく表している。
それでいて、第3話で、失恋して落ち込んでいる原口の手を取り「最強に肉食べたいです」と誘ったときの笑顔は、いつもの作り笑いとは違って、甘え上手な年下男子らしさと、原口の性格をよくわかっている聡明さがあり、氷の女である原口が心かき乱されてしまうのも無理はないと思わせてくれた。
また、さり気ない台詞回しにも役者としての技術が窺える。秀逸だったのは第5話。この回だけで勝太郎は「相手、中学生ですよ」という台詞を二度吐く。一度目はジョギングを終えてのお風呂上がり。タオルで顔を隠した勝太郎は「相手、中学生ですよ」と今まで聞いたことのないような揺らぎと湿り気を孕んだ声で呟く。そして二度目は聖を連れて大阪に帰ろうとする直前。食い下がる原口を、勝太郎は「相手、中学生ですよ」と努めて冷静に、かすかに口元に笑みを添えていなす。台詞は同じ、きっと根底にある不安も同じだが、言い回しの違いで、懸命に理性的であろうとする勝太郎の本音と建前を見せた。
こうした障害のある恋愛モノは、間に入るキャラクターが強烈であればあるほどドラマが盛り上がる。だからつい勝太郎のようなキャラクターは過剰に演出してしまいたくなるのだけど、その欲を抑えて、ごく普通の善良な人間として勝太郎を描けているところがいい。だから、『中学聖日記』は悪趣味でスキャンダラスな大衆路線に走らずに、静謐で繊細な純愛ドラマとしての質感を保てているのだと思う。