『僕らは奇跡でできている』高橋一生は主役ではなく“鏡”の存在? 一風変わった作風の意図を読む
しかし、その点、今作は絶妙だ。多くの視聴者が望む「高橋一生=変な人」像はきちんと押さえている。それよりも重要なのは、高橋演じる一輝は、主役であって、主役ではないという点だろう。
もちろん終始出ずっぱりであり、一輝を中心に物語は描かれているのだが、各話のストーリー上の主役は別にいる。一輝は、小さなトラブルを起こしたり、周りをイラつかせたりしつつも、本人は一貫して何も変わらない。その都度、自分の興味に対して真っすぐ突き進み、答えを探るものの、「答え」を得ることによって特に変化・成長はしない。ずっと同じ場所にいるのだ。
逆に、変化し、成長していくのは、一輝と接する周りの人たちのほう。それはたとえば、歯医者で出会う少年と母だったり、一輝に興味を持ち、惹かれていく女子学生だったり、最初は反発していた男子学生だったり、榮倉奈々演じる歯科医師・育実だったりする。
一輝の投げかける素朴な疑問は、他の誰かに気づきを与えるが、その気づきは心地良いものばかりじゃない。ときには目を背けていた自身のコンプレックスや、醜い感情を自覚させ、痛い部分をえぐったりする。どんなことにも楽しみを見出す「楽しみ方の天才」一輝の存在によって、一生懸命努力し、真面目に生きてきた育実のようなタイプが、劣等感を抱いたりする。
一輝の存在は、言ってみれば、各回の主役たちにとって、自身と向き合う鏡のようなものであり、「変化」を促す媒介でもある。第6話のラストでは、ずっと森の中の分断された向こう側にいかなかったリスが、とうとう一輝の作った細い橋を渡っていく。それを見て、様々な気づきを得ながらも、これまでの価値観や常識に縛られ、苦しみ続けてきた育実が、号泣する。
育実もまた、変わることができるのか。いよいよストーリー上の最大の主役の物語が次回描かれる。
■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。
■放送情報
『僕らは奇跡でできている』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00~21:54放送
出演:高橋一生、榮倉奈々、要潤、児嶋一哉、西畑大吾(関西ジャニーズJr.)、矢作穂香、北香那、広田亮平、田中泯、トリンドル玲奈、阿南健治、戸田恵子、小林薫
脚本:橋部敦子
音楽:兼松衆、田渕夏海、中村巴奈重、櫻井美希
演出:河野圭太(共同テレビ)、星野和成(メディアミックス・ジャパン)、坂本栄隆
プロデューサー:豊福陽子(カンテレ) 、千葉行利(ケイファクトリー)、宮川晶(ケイファクトリー)
主題歌:SUPER BEAVER「予感」([NOiD] / murffin discs)
オープニング曲:Shiggy Jr.「ピュアなソルジャー」(ビクターエンタテインメント)
制作協力:ケイファクトリー
制作著作:カンテレ
(c)関西テレビ
公式サイト:https://www.ktv.jp/bokura/index.html