『ここは退屈迎えに来て』橋本愛と門脇麦が演じる、“人々の関わり”の物語
人々の連関は、ほかの演出にも見られる。やはり監督が廣木隆一とあって、長回しでの撮影が魅惑的だ。人生という旅の中での人々のすれ違い、そして各々がどこかで関わり合っているさまを、心地のよい長回し撮影によって映し出している。たとえば、2004年パートで瀧内公美演じる家庭教師の車が画面から抜けていくと、その画面奥から、2008年パートの門脇麦演じる“あたし”が出てくるというものがある。別の時間を過ごしているはずの者たちが、ワンカット(=一片の映像)内でまるで時空を越えるようにすれ違い、場面はシームレスに転換していくのだ。この一時代を生きる者たちの抱える心情などが、切り離された、独立したものでありながらも、どこかですれ違っているという事実が“関わり合う”ということを強く印象づけるだろう。
さらには、2004年パートの高校時代、“私”とクラスメイトの新保(渡辺大知)がプールサイドで話をしているところ、椎名が二人を水の中に突き落とす。さらにその椎名を別の生徒が突き落とし、気がつけばクラス皆が水の中で押し合いへし合いを演じているというものがある。ここも人々の関わり合いを示すものとして象徴的で、強く印象に残るだろう。他者との関わりなくして青春はありえない。
青春時代を思い出してみてはあの頃を懐かしみ、現在の自分とはまた違う、ありとある別の可能性を夢想してみたりもする。この物語の登場人物たちは、かつて高校生だった誰かの(私たちの)いくつもの可能性をも示している。そこには正解などないのだ。最後には「人生を楽しむこと。幸せを感じること」というオードリー・ヘップバーンの言葉が橋本愛の声を通して語られる。そして、皆がそれぞれ口ずさむ歌からは、自分の歌い方で、自分の歩き方で、人生を楽しんでいけばいい。そんなことをそっと教えられるのだ。
■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。
■公開情報
『ここは退屈迎えに来て』
全国公開中
出演:橋本愛、門脇麦、成田凌、渡辺大知、岸井ゆきの、内田理央、柳ゆり菜、亀田侑樹、瀧内公美、片山友希、木崎絹子、マキタスポーツ、村上淳
原作:山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』幻冬舎文庫
監督:廣木隆一
脚本:櫻井智也
制作プロダクション:ダブ
配給:KADOKAWA
(c)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会
公式サイト:http://taikutsu.jp/