『ここは退屈迎えに来て』橋本愛と門脇麦が演じる、“人々の関わり”の物語

橋本愛と門脇麦が口ずさむ「茜色の夕日」

 「何者かになりたい」という漠然とした希望や、「ずっと高校生のままでいたい」という少し甘えた願望、そんな想いを胸に秘めながら、恐らく多くの者が年齢を重ねていくのだろう。いま隣にいる“あなた”、あるいは、さっきすれ違った“誰”か。そしていまこれを書いている“私”もまたその一人である。

 山内マリコによる連作小説を原作とした映画『ここは退屈迎えに来て』は、そんな私やあなたや誰かを見つめた群像劇だ。2004年から2013年までの時間軸の中で、すれ違う人々や営みの連関を、ときに朗らかに、ときにピリリと痛く、ゆったりとしたロードムービー調で描いている。

 ロードムービーとはいえ、なにかハプニングや、大きな目的があるわけではない。イケてる男子高校生・椎名(成田凌)をめぐる同級生たちの約10年間の物語であり、本筋は、大人になった主人公・“私”(橋本愛)たちが、高校時代のクラスメイトである椎名を訪ねていくというものだ。

 将来この田舎町を出ていきたい者、出ていかなかったことを後悔している者。そして、戻ってきた者、出ていけなった者、出ていきたいとは口にしながらも実行できないでいる者たち。2004年−2008年−2010年−2013年と映し出されるこれらの時代では、おもに年若い男女の、他愛なく、地元のコミュニティ内でしか通じないような会話が盛んに交わされている。けれども、彼らが学生時代を回顧しては懐かしみ、恥じ、後悔し、やがて“たられば”の物思いに耽る姿には見覚えがある。過ぎた日々への“たられば”な思いというのは、口にせずとも誰もが心に生じさせてしまうものではないだろうか。ここには観客である私たちの過ごしてきた時間と同じものが流れているのだ。かつての自分の姿、あるいは今の自分の姿を、舞台である富山の田舎道をぐるぐると周回する彼/彼女の中に見出すことができるかもしれない。理想と現実の隔たりはなかなか縮まらず、誰もがこのはざまにある道を進んでいくのだ。

 ロードムービーといえばやはり気になるのは音楽である。主題歌「Water Lily Flower」も手がけたフジファブリックが劇伴を担当し、さらにはDATSの「Heart」や、LUCKY TAPESの「Peace and Music」といった楽曲たちが、物語に軽快さを与えるのと同時に観る者の郷愁を誘う。物語の終盤では、登場人物たちが赤く染まった空を感じながら、フジファブリックの「茜色の夕日」を一様に口ずさむという演出がある。それぞれの場所で、それぞれの歌い方でだ。同じ歌を口にし、同じ夕日を感じる、ここに彼らの連関が見られる。そして場所は違えど、私たちの頭上にもまた同じようなものが広がっているではないか。ただ、どれだけ離れていても、近くにいても、それをどのように感じるかは人それぞれだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる