岡田将生、圧巻の「品川心中 上」を披露 『昭和元禄落語心中』大政絢との出会いがもたらしたもの
戦争が終わり、景気の復興とともに落語界も盛り上がりを見せてきた。満州慰問によって腕を上げ、若手一番株として確実に人気を獲得していた助六(山崎育三郎)に対し、劣等感を抱いていた菊比古(岡田将生)は、芸者のみよ吉(大政絢)との出会いによって自分の落語を見つけることとなる。
10月26日に放送されたNHKのドラマ10『昭和元禄落語心中』の第3話では、岡田扮する菊比古が圧巻の落語を披露した。ストーリーの重要な部分を担っている演題「品川心中 上」は、落ち目になった女郎・お染が、浮名を立たせるためだけに馴染みの客と心中するという噺。このお染と、菊比古に言いよるみよ吉(大政絢)には、非常に似たところがある。
菊比古は真面目すぎる性格から助六(山崎育三郎)にバカにされ、師匠からは「お前の落語は隙がねえ」と言われ続けていた。そんな弟子を見かねた師匠が連れて行ったお座敷で、菊比古はみよ吉と出会うこととなる。菊比古の品のある佇まいに惹かれたみよ吉は「2人で話してみたい」と菊比古を誘う。
みよ吉は満州で色を売って生き延びたという過去を持っていた。「死ぬのなんて怖くない。1人で死ぬのは怖いけど」と自分の弱い部分を菊比古に見せるみよ吉と「品川心中」のお染にはどこか重なる部分を感じる。
だが同時にみよ吉は、強く芯のある女性としても描かれているのが面白いところ。自分の進むべき道を迷っていた菊比古に対し「自分の居場所は自分でつくるものよ」と喝を入れる。舞台で初めて芝居をやることになり、弱気になっていた菊比古にキスをし、「大舞台の時は客席を見渡すの」と背中を押した。この強い部分と弱い部分の共存は、まさに菊比古が言われ続けていた“落語の隙“そのものだ。魅力ある落語が、みよ吉を通して描かれていた。
大舞台を経て一回り成長した菊比古は、これまでとは見違えるような落語を披露する。ここで披露されたのが「品川心中 上」だ。みよ吉との出会いによって、自分の居場所を作るためにやると決めた菊比古の落語には、より説得力と求心力が生まれていた。
菊比古は隙のある落語ではなく、圧倒的な存在感でお客を惹きつける落語にたどり着いた。愛嬌と人柄でお客を笑わせる助六にしかできない落語のように、菊比古も誰にも真似できない自分だけの落語をみよ吉との出会いから手に入れた。