公開3週目にして動員アップ中の『若おかみは小学生!』  ネット発ヒットの可能性と限界

『若おかみ~』 ネット発ヒットの可能性と限界

 もっとも、いくらソーシャル・メディアで評判が広がって集客が伸びているとはいえ、現状では、例えば2016年の片渕須直監督作品『この世界の片隅に』や、アニメ作品ではないが今年の『カメラを止めるな!』のようなムーブメント化にはいたってはおらず、既に公開4週目に入ろうというタイミングを踏まえると、スクリーン数が減少しているここからどれだけ盛り返すことができるかは未知数だ。思い出すのは、(これもアニメ作品ではないが)2012年公開の『桐島、部活やめるってよ』の興行だ。その翌年には日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞するなど、時間が経過してからその評価を確固たるものにした同作だが、公開時のリアルタイムで話題になったのは既に上映スクリーンが減らされた後で、興収面では芳しい結果を残すことはできなかった(一部劇場ではロングラン上映されることになったが)。ソーシャル・メディアによって良作が埋もれず、ちゃんと評価されるようになった近年の傾向(もちろんそこからこぼれ落ちる良作もあるわけだが)は映画界にとって間違いなくポジティブな変化だが、「火がつくタイミングがもう少し早ければ」という事例も少なくない。ここにきて火がつき始めた『若おかみは小学生!』が今後どうなっていくか、見守っていきたい。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『若おかみは小学生!』
全国公開中
監督:高坂希太郎
原作:令丈ヒロ子
脚本:吉田玲子
出演:小林星蘭、水樹奈々、松田颯水、遠藤璃菜、小桜エツコ、一龍斎春水、一龍斎貞友、てらそままさき、薬丸裕英、鈴木杏樹、設楽統、小松未可子、ホラン千秋、山寺宏一、折笠富美子、田中誠人
配給:ギャガ
(c)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会
公式サイト:https://www.madhouse.co.jp/wakaokami/movie/

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