予想を裏切る驚愕展開のオンパレード! 沢村一樹主演『絶対零度』第1章を総復習

衝撃の『絶対零度』第1章を総復習

ミハンが生むパラドックス

 最新のAI技術と、統計学を駆使しして設計された未然犯罪捜査システム、通称“ミハン”。膨大な数の監視カメラとともに、国民の基本情報や通話履歴などから、犯罪(特に殺人)を引き起こしそうな人物をあぶり出し、未然に犯罪を防ぐために開発された。井沢(沢村一樹)や小田切らが所属する資料課は、秘密裏にこのミハンシステムを用いた捜査を行い、そのシステムの精度を着々と高めようとしていた。しかし、当然のことながらこうした捜査は現時点では違法捜査扱い。まず、この点が一つの葛藤の種になっている。特に赴任したばかりの山内(横山裕)はこの点に当初は大きな拒絶感を示す。こんな違法捜査をしていていいのかと。それは山内だけではなく、小田切も田村も心のどこかで思っているような節があった。でも、もしも法律を破った捜査であったとしても、それで悪が生まれるのを防げるのであればと、暗黙の了解の中でミハンと付き合っていくことになる。しかしながら、(第4話の銀行強盗の事件のようなケースはあるが)法律を破ってまで行った捜査が、必ずしも良い結果に終わるとは限らなかったのだ。そんな皮肉を教えさせられる。

 本作によると、実際に欧米の一部の国々ではこうした捜査が行われているらしく、日本でもいつか本当にミハンのようなシステムが使われるようになるのかもしれない。ひょっとすると(無論、賛否両論あるが)、より犯罪が減るのであれば、歓迎できるシステムであるとの声もあろう。しかし、本作では、そのミハンが持つ矛盾からくる恐ろしさも伝わってくる。第2話や第3話が例として分かりやすい。どちらの話でも、ミハンが探知した人物が殺害の対象とする人間は、本来ならば法律で裁かれるべきだとして描かれる人間なのである。つまりミハンチームは、小田切の言葉を借りれば、“クズ”たちを守るために、捜査に乗り出さなくてはならないのだ。もちろん、今のチームの目的の一つには、不完全なミハンシステムをより完全なものに近づけるために、いくつかの捜査に当たっているということもある。しかし、当初はミハンが検知した人物に宿っていた殺意は、無事チームのおかげで大事に至らずに封じ込められても、皮肉なことにその殺意はある人物に奇妙なかたちとなって“伝染る”のだ。そして一度生れてしまったそんな殺意は、閉じ込められることなく萌芽する。これがミハンの生んだ皮肉なパラドックスである。第2話、第3話での“仕置”は視聴者に溜飲を下げさせる効果もあったかもしれない。しかし、結局制裁が下されるのであれば、一体何のためのミハンであったのかということも同時に考えなければならない。

“法律に違反した制裁”の果てにあったもの

 そして、前回の第6話ではその“仕置人”の正体が田村だと判明した。田村は過去にフィアンセを連続殺傷事件で失ったという苦い過去があった。しかも、その犯人は以前から田村が目をつけていた人物であったということもあり、事件後に、被害者遺族から責任を追求されたときには、ただ「すみません」と頭を下げるしかなかった。そして、ミハンに配属された彼は、そんな経験もあってか、“法律で裁けなかった悪”に対して“法律に違反した制裁”をもって裁きを加え始める。目には目を、歯に歯を。

 言うまでもないことであるが、悲しいかな、それがたとえ“正義”なるものに裏付けられた行為であったとしても、私たちの世界ではそれが法律を破っているのであれば、罰が下されるということをグロテスクに見せつけられた(田村の場合は自殺ではあるものの、それはまるで因果応報の罰のようだった)。“法律に違反した捜査”、それで明らかになった、“法律で裁けない悪”、そしてそれに下された“法律に違反した制裁”。今回の『絶対零度』ではその奇妙な流れの中で、“正しい世界”に近づけようと葛藤する人間たちの有様を寓話的に描き出している。

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