安達祐実、見事な母親像で説得力をもたせる 『ケンカツ』山田裕貴が見つけた母親への寄り添い方

『ケンカツ』山田裕貴の母親への寄り添い方

 現在36歳の安達は、現実にも二児の母。であるからこそなのか、今作で演じる朋美役として、娘・咲(吉澤梨里花)の手を引く姿などは、やはり真実味がある。しかし安達といえば、『海月姫』(フジテレビ系)での最強のオタク女子・ノムさん役の衝撃も記憶に新しい。どこかあどけなさを残した少女のようなルックスに、語尾に「でしゅ〜」をつけたセリフ回し。芸歴34年の彼女だからこそ、なせるわざなのだろうか。演技力の振れ幅だけでなく、見た目の説得力の幅も計り知れない、何にでも変身してしまう稀有な女優である。今作でも、責任感が強く、それが原因で自身を追い詰めてしまう母親像を見事に作り上げた。

 そんな安達の演じる朋美と対峙したのが、山田演じる七条。朋美の異変に気づいたえみるは、「あまり追い込まないほうがいい」と彼に助言するが、朋美の側につき、そして同じように母子家庭で育った自分こそ「彼女のことを分かっている」のだという。

 今回は、いつも彼ら新人ケースワーカーに厳しいながらも温かさを見せる上司・京極大輝(田中圭)のセリフが胸に響いた。「誰よりも母親の気持ちを分かっているはずだろ」の一言である。そこに重なるのは、「自分の口から“助けて”と言えない母親は多い」のだと口にする七条の母の姿である。それを受けた七条は走る。そして、もうすでに精神的にかなり追い込まれている朋美に「頑張っている母親より、頑張っていない母親の方が好きだった。一緒にいられる時間が長かった。だから今は、頑張らないでほしい」という言葉を贈るのだ。これが彼の寄り添い方である。

 そんな彼に対して朋美は、「頑張ります」という言葉を返す。だがそれは、七条に勢いづけられ、無理をして口をついて出た「頑張ります」ではなく、ここからまたゆっくり歩きだしていこうと、そんな決意とも取れる明るい言葉であった。そこで見せた朋美の笑顔は、もっとも優しいものであった。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■放送情報
『健康で文化的な最低限度の生活』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:吉岡里帆、井浦新、川栄李奈、山田裕貴、小園凌央、水上京香、安座間美優、谷まりあ、鈴木アメリ、内場勝則、徳永えり、田中圭、遠藤憲一ほか
原作:柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)
脚本:矢島弘一、岸本鮎佳
監督:本橋圭太、小野浩司
プロデュース:米田孝(カンテレ)、遠田孝一(MMJ)、木曽貴美子(MMJ)、本郷達也(MMJ)
制作協力:メディアミックス・ジャパン
制作著作:カンテレ
(c)関西テレビ
公式サイト:https://www.ktv.jp/kbss/index.html

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