ハリウッドだけの問題ではないことが浮き彫りに カンヌ映画祭に見る、映画業界が直面している課題

カンヌに見る、映画業界が直面している課題

 開催時期の件はともかく、他の論点を端的にまとめると、技術的、社会的両方の文脈において映画業界が曲がり角にきているにもかかわらず、カンヌ国際映画祭は基本的に変化を拒む態度であり、それによって映画祭が「Relevance」を失いつつあるということである。「Relevance」とは、ここでは、最近の社会・コミュニティーの中での重要性、というような意味をもつが、興味深いのはこれらの批判の出どころは、基本的にハリウッドのメディアであるということだ。

 これらの批判をめぐっては、アメリカで往々にして映画に期待される姿、すなわち社会を映すメディア作品としての社会的責任と、フランスで考えられている映画のあるべき姿との間に、大きな隔たりが存在しているのが見える。VarietyやLos Angeles Timesは、それぞれハリウッドの業界紙とロサンゼルスの主要紙であり、当然のことながら、その記事にはハリウッドの価値観が強く反映されている。現在のハリウッドでは、テクノロジーの変化やマイノリティーへの待遇改善などに敏感に対応していく態度が企業、個人ともに求められており、その中で変化を受け入れずに拒み続ける態度は、映画の中心地であるはずのハリウッドとの関係を蔑ろにしているというように映ってしまうだろう。ハリウッドから見ると、その姿勢は時代遅れであり、カンヌの映画業界における地位と権威を自らリスクに晒しているようなものである。

 アメリカでは、ここ何年か叫ばれ続けているマイノリティーへの待遇の向上と機会均等の議論について、かつてないほどにその声が強まっている。今年の3月、アカデミー賞で主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドは、授賞式後の記者会見で「『女性』や、『アフリカンアメリカン』はトレンドではない」と述べ、問題の根本的な解決を求めた。一方、カンヌをかかえるフランスの映画業界は、ハリウッド映画とは一線を画したアート・文化の作り手として、国内外からの尊敬を集めてきた。しかしエンターテインメントのグローバルマーケットにおけるハリウッドの影響力を考えると、カンヌといえども、それを無視することはできない。カンヌ国際映画祭期間中には、上で述べた82人の女性フィルムメーカーたちのメッセージが#MeTooのムーブメントと合わせて報じられたが、続く5月16日には16人の黒人女性フィルムメーカーたちが同じ場所で人種差別と性差別に対する声をあげた。このことはあまり多く報じられてはいないが、17日、彼女らは記者会見の中で、フランス映画界にも存在する人種と性別におけるバイアスについて話し、人種や性別の不平等性はアメリカだけの問題ではないことを明らかにした。

 またカンヌがNetflix締め出す方針を打ち出したことで、アルフォンソ・キュアロンやポール・グリーングラスといったベテランたちの最新作が今年のコンペティション部門出品のリストから消えることになった。これによって、カンヌのその保守的な姿勢を国内外に曝け出しただけでなく、「映画祭自身を定義づける作品」という意味でも、映画祭の価値をあげることに貢献するタイトルを失ったのである。これによってNetflixと映画祭、どちらが損をしたのかは明らだろう。

 映画祭という場所を使ってメッセージを力強く発信し、議論を巻き起こしながらも変化を生み出すハリウッドと、あくまでも大きなスクリーンで伝統的な鑑賞方法を守るという決定に見られるように、保守的な態度を示したカンヌ。テクノロジーと社会の双方向から、否が応でも急速に変革を求める映画業界に対して、カンヌがこの先どのように向き合っていくのか、誰もが納得のいく答えは、来年以降に持ち越された格好だ。

■神野徹
北海道出身。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で映画プロデュースを学び、その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。

参照:

・Variety|Does Cannes Have a Future? Yes, but the Festival Needs to Change
・Variety|Cannes Faces Existential Crisis: Evolve or Fade?
・Los Angeles Times|Stubborn? Arrogant? Irrelevant? The 2018 Cannes Film Festival weathers the storm
・IndieWire|Alfonso Cuarón at Cannes 2018: Festival ‘Continuing to Beg’ Netflix to Let ‘Roma’ Premiere
・Variety|Cannes Movies Are Still Counting on Netflix to Rev Up Sales

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