『万引き家族』、各世代を代表する女優2人が鍵に 是枝映画初出演の安藤サクラと松岡茉優の煌めき
第71回カンヌ国際映画祭にて最高賞であるパルムドールを受賞した『万引き家族』。是枝裕和監督の凱旋帰国後にすぐさま空港で開かれた会見には大勢の記者が詰め寄せ、受賞から1週間以上経過した今なお、本作の公開を前に祝福の報道で大賑わい状態だ。
審査委員長を務めたケイト・ブランシェットが、公式記者会見で「この作品は演技、監督、撮影、など総合的に素晴らしかった」と述べたように、本作はストーリーを含め、“家族”を演じた役者たち、関わった人々のアンサンブルが評価されたようだ。
不思議なバランスの中で話が進む本作を鑑賞し、キャスト全員の芝居の力を見せつけられ、「どのパーツも不可欠だった」と感慨深く語る古豪ライターの麦倉正樹氏は、今回鍵となった2人の人物の名を挙げる。
「今回の『万引き家族』は、『誰も知らない』のような子役を主体としたドキュメンタリータッチの作品、『歩いても 歩いても』のような是枝監督の私小説的な作品、そして昨年の『三度目の殺人』のようなプロの実力派俳優を起用した作品など、是枝監督が今までやってきた3つのラインが全て凝縮されているため、多くのメディアが『万引き家族』は是枝監督の“集大成”と言っているのだと思います。映画全体のトーンとしては、これまでも是枝監督の作品に出演してきた樹木希林さんとリリー・フランキーさんの飄々とした芝居が形作っている印象ですが、柳楽優弥さんを第57回カンヌ国際映画祭で男優賞に導いたように、今回も城桧吏くんをはじめ、子役のごく自然体な芝居の演出が随所に光っていました。ですが、実は本作において最も鍵を握っているのは、是枝映画初出演となる安藤サクラさんと松岡茉優さんという、その世代を代表する2人の女優で、彼女たちの演技が見事作品にハマっているように思いました」
昨年『三度目の殺人』で大抜擢されたのが、10代で既に実力派女優として名を挙げた広瀬すず。そして本作では、20代の代表として松岡茉優、30代の代表として安藤サクラを大抜擢したと続ける。
「松岡さんも安藤さんも、女優としてずば抜けた実力があることは周知の事実ですが、今回の抜擢の理由は、もちろん芝居が上手いこと、そして彼女たちの存在感にあるのだと思います。是枝監督は、あらかじめ脚本をものすごく書き込むタイプの監督ではないので、脚本の中で設定したキャラクターに現場でどのように生命を吹き込むのかが重要になってくる。役者の力量などテクニカルな意味というよりは、人としての“人間力”が求められる現場なのだと思います」
オスカー女優のケイト・ブランシェットをも震え上がらせた安藤について、麦倉氏は今でも夢に出てくるほどとてつもない印象を残していたと話す。
「安藤さんは、一見すると庶民派のようでいて、突如スイッチが切り替わる瞬間がある。園子温監督の『愛のむきだし』以来、彼女の演技はどの出演作でも評価されていますが、今回はとにかくすごかった。安藤さんが女優魂を見せつけた、最後の“あるシーン”があったからこそ、カンヌで上映直後に全観客が感服し拍手喝采したのではないでしょうか。カンヌ国際映画祭は助演賞がありませんが、もしもあったら絶対に彼女が獲っていたと思います。安藤さんは、10月からスタートするNHKの次期朝ドラ『まんぷく』のヒロインにも決まっているので、これまで映画での活躍が目立っていた彼女が、これからは国民的女優になっていくであろうことは予想していましたが、この映画によって一気に国際派女優になってしまう可能性も十分にあるでしょう。より将来が広がった印象ですね」