満島ひかりの代表作のひとつにーー全ての必然性が揃った『海辺の生と死』
戦中と終戦の端境期を描いた『海辺の生と死』には、反戦の念も込められている。戦時という時代は、劇中の若い男女の恋愛を許さない。そのことを、映画冒頭のあるカットで示唆しているように見えるのだ。満島ひかり演じる教師は、島の子供たちとトンネル状になった木々で覆われた林の中の一本道を歩いている。やがて彼らの進む道先に軍人たちが現れ、一本道を迂回して遠回りするように強いる。その状況が、若い男女ふたりの姿を暗喩させているように見えるのだ。「一本道を通ってはいけない」ということを、国家側の存在である軍人が命令する。つまり、ふたりの一途な関係自体が許されないのではなく、時代というものが彼らの一途な関係を許さないということなのである。
『海辺の生と死』のモデルとなった島尾ミホの文体には、加計呂麻島で生まれ育ち、加計呂麻島での衣食住を経験してきたからこその感覚に裏打ちされた、匂いのようなものまで感じさせる。越川道夫監督は『夏の終り』の公開時から、満島ひかりに対して「これは満島さんの役」と本作の主役が彼女でなければならないことを伝えていたという。それは原作にも流れている“ふるさとが引き出す何か”を重視したからにほかならない。奄美を舞台に、奄美出身の作家の描いた世界を、奄美にルーツのある女優が演じる。全ての必然性が揃った『海辺の生と死』が、女優・満島ひかりにとっての代表作のひとつになることは間違いない。
※「文學界」2017年6月号より
■松崎健夫(まつざき・たけお)
映画評論家。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『キネマ旬報』(キネマ旬報社)、『ELLE』(ハースト婦人画報社)、『SFマガジン』(早川書房)などに寄稿。『WOWOWぷらすと』(WOWOW)、『ZIP!』(日本テレビ)、『japanぐる~ヴ』(BS朝日)、『シネマのミカタ』(ニコニコ生放送)などに出演中。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。
■リリース情報
『海辺の生と死』
2月7日(水)Blu-ray&DVD発売
<Blu-ray>
枚数:2枚組(本編ディスク1枚+特典ディスク1枚)
価格:¥5,800+税
本編155分+映像特典
【Blu-ray 特典】
映像特典
・完成披露試写会
・初日舞台挨拶
・予告編
・メイキング
封入特典
・ブックレット
<DVD>
枚数:2枚組(本編ディスク1枚+特典ディスク1枚)
価格:¥4,800+税
本編155分+映像特典
【DVD特典(予定)】
映像特典
・完成披露試写会
・初日舞台挨拶
・予告編
・メイキング
封入特典
・ブックレット
出演:満島ひかり、永山絢斗、井上脇海、泰瀬生良、蘇喜世司、川瀬陽太、津嘉山正種
脚本・監督:越川道夫
原作:島尾ミホ『海辺の生と死』(中公文庫刊) 島尾敏雄『島の果て』ほかより
脚本監修:梯久美子
参考文献:『狂うひと―「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社刊)
製作:株式会社ユマニテ
制作:スローラーナー
助成:文化庁分化芸術振興費補助金
配給:フルモテルモ、スターサンズ
発売・販売元:バップ
(c)2017 島尾ミホ/島尾敏雄/株式会社ユマニテ
映画公式サイト:www.umibenoseitoshi.net