“普通”からはみ出してしまった人々に希望はあるのか? 『anone』が描く本物とニセモノ
このドラマはそんな、世間の「普通」からはみ出してしまった、居場所のない人たちの物語だ。持本が「同じ道を歩いていて、1人だけ穴に落ちた」と語る川瀬陽太演じる、彼らを脅し、拳銃自殺したどうにも憎めない男・西海もそうだ。彼が死んだ海岸の「入らないようにしましょう」という溺れる子供が描かれた看板が忘れられない。溺れてしまった西海と、海岸の際を歩いているような彼らは同じだ。
鮭が熊を襲うのは、北海道土産の木彫りの熊をパロディにした新種のお土産でしかみたことがない。それもまた本物とニセモノである。本物のようなニセモノのお金とニセモノの過去、実弾の出るニセモノの拳銃、そして本物の子供ではなく幽霊の子供と、間違えられた子供。そして、彼らが形成するニセモノの家族。ニセモノに過ぎないものに希望を見出すしかない人々は、この先何を作り出し、何を見出していくのか。ハリカのスケボーの裏に描かれた、パウル・クレーの「忘れっぽい天使」を思わせる絵が、彼女の育った更正施設の壁にあった絵と同じであることも気にかかる。そしてまだ謎が多すぎる、瑛太演じる中世古は彼らとどう関わっていくのか。
物語はまだ、始まったばかりだ。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
『anone』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:広瀬すず、田中裕子、瑛太、小林聡美、阿部サダヲ、火野正平ほか
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:次屋尚
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/anone/