西野七瀬、『電影少女』キャスティングはアリ? 原作者・桂正和の作家性から考察
「コバンザメ!」そう言ってビデオガール・天野アイ(西野七瀬)が弄内翔(野村周平)に後ろから抱きつく。このときのアイの格好はバスタオル1枚。原作漫画にもある、ちょっとエッチで、男子の心をくすぐるような描写だ。それを、国民的アイドルグループ乃木坂46の中心メンバー西野七瀬が演じるわけである。野村に「おい、そこ変われ」と思う男子は少なくないだろう(西野推しにはつらいかもしれないが)。とりあえず、キャラクターのシルエットという観点で言えば、西野のキャスティングは、現在放送中のドラマ『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』(テレビ東京系)の天野アイにピッタリと言える。しかし、それよりも重要なのは、西野と原作者・桂正和の作家性との相性だろう。
西野といえば、「乃木坂は清楚」との印象をまさに体現したメンバーだ。ドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』で、彼女の母親が語っていたように、幼少期から控え目で、前に出るのが苦手。今もおとなしく、見方によっては根暗な印象を抱きやすい。ただ、大好きな漫画『ジョジョの奇妙な冒険』などの話になると、急に話が止まらなくなるといったオタク特有の一面も持ち合わせている。また、グループのファッションリーダー的存在の1人で、実際に『non-no』専属モデルも務めている。
そんな西野だが、女優としてのセンスも抜群だ。まず、わかりやすいところでは、情感豊かに発声できるところ。そのシークエンスの状況、演じる人物の細やかな心情に合わせ、情感をこめ、的確に話すのが、メンバーの中でもひと際上手い。また、西野の個性に合わせたような、控え目な性格の役が多く、表情を抑えた演技の印象が強いかもしれないが、個人PV(シングルの特典でついてくるメンバーの寸劇動画)などでは、微細ながらも顔のパーツで豊かに感情表現できるのもうかがえる。
そこで、本作『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』での西野を見てみよう。今まで発揮してきた演技特性を生かしつつ、全く見たことのないような演技もしてみせるのだ。たとえば、冒頭の登場シーン。翔は、突如自宅の床で、「なぐさめてあげる 天野あい」のタイトルにアイのバストショットのビデオケースを発見。中身をデッキに挿入してみる。すると、アイが話し始め、やがて画面から飛び出してくる。そして、「オレ、天野アイ、よろしくね」と告げる。
その後、「お風呂にいっしょに入ろう」と、バスタオル1枚の状態で、アイは翔を追いかける。奥手な翔は戸惑いながら逃げる。そして、バスタオルがはだける。だが、アイはその下に服を着ていたため、「期待してんじゃん」と小バカにしたように告げる。そのカットでの、キャラとしての感情をこめた発声、ゆっくりと歯を見せて笑うさまなどが印象的だ。小悪魔的な雰囲気と破天荒さが入りまじった、憎らしいけど愛おしい、今までの西野のイメージとはまた異なる魅力が溢れている。加えて、パーツの動かし方や話の間から見ても、演技力が向上しているのがわかる。他のシーンでは、翔にかまってほしいという気持ちから、彼に顔を近づけ、「オレじゃあダメ?」といじらしく聞くが、このときの演技も繊細で、やはり上達が見られる。
一方、桂正和の漫画は、エロとラブコメ、シャープなフォルムのヒーローがトレードマークであり、極端に奥手な主人公と、彼らを何らかの形で成長させるイマジナリーフレンドとのドラマを描いてきた。『電影少女』では、アイが3ヵ月という限られた時間の中で、翔に意中の子を射止めさせるのが目的だった。ただ、アイは翔に従順ではなく、むしろ彼をおもちゃのようにしてもてあそぶ描写も多い。テレビから登場した直後、顔がくっつくぐらいに近づけて、「なにすっか?」と言った数コマあとでは、「オレたちビデオガールってさ、男にとって都合いい存在なんだ。おまえが望むようにしてやるよ」と。さらにその直後、「じゃあ……とりあえずエッチしようかエッチ!」と言うものの、主人公がその気になると見るや、「ジョーダンだよ、ジョーダンまにうけるな」と散々なありさまである。アイは翔の味方ではあるものの、決して思い通りにできる存在ではなく、そのジレンマを感じさせる細かなやり取りにこそ、ラブコメ漫画としての醍醐味とドラマ性があった。